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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

あの時はCT必要だって言ったじゃん!

転倒して頭をぶつけて脳外科の外来や、救急外来を受診される方はたくさんいます。


皮膚が切れて出血した」ということでの受診、救急搬送であれば、創の深さを評価して、必要なら縫ったり、ステープラーでバチンと止めて傷を寄せ、止血する処置を行います。


そして頭を強くぶつけている場合、例えば交通事故などの場合には、CTを撮って頭蓋骨の内側に出血を起こしていないかを確認することもあります。


CTを撮影するかどうかというのは、医者の判断によりますが、基本的には患者さんの状態を見て判断ということになるほか、交通事故や加害者がいる場合には”行政的な問題”も絡んでくるので考慮することがあります。


一方で、頭がざっくり切れていても、頭の中で出血を起こっている可能性が低い場合には、余計な放射線被曝は避けなければならないため、CTを撮らないことも多々あります。


(余談ですが、「たんこぶができていれば、(頭の)中は大丈夫」みたいな言い伝えがありました(あります?)が、真実ではありません)


CTが必要かどうか?については、最近ではいくつかの指標を元にした基準があり、臨床経験がそれほど無くても、検査が必要な患者さんを漏らさないようにしているようです。

子供ではPECARN score, 大人ならカナダ頭部CTルールなどが有名で、例えば(2回以上の嘔吐があるかどうか、危険な受傷機転(高所・交通事故など)かどうか、で点数をつけていくわけです。


意識がしっかりしているかどうかももちろん重要で、患者さんの意識が無い場合は、それがアルコール臭くて(酔っ払っているせいじゃないか?)と思っていても、どちらか分からないため、原則撮影することになります。

脳に大きな傷がついてしまうと、元には治らないため、「疑わしきは調べる」というのが原則になるわけです。


患者さんの意識がしっかりしている時には、上記のスコアで評価し、(まず大丈夫だと思うが…)という場合に、患者さんの検査の希望を考慮することもあります。


そのような場合、希望があればその時にCTを撮影して、問題無いのを確認して帰宅ということになるのですが、希望が無く帰宅された方の中に、翌日以降になって「やっぱり心配だからCTを撮影してほしい」ということが、しばしばあります。


しかし、その時には同じ病院側から「は?CTなんて、もう必要ありませんよ。ご自身の希望で検査、ということであれば脳ドックでも受けられたらどうですか?」といった対応されることが一般的で、場合によっては病院の窓口にクレームを入れる方もいるようです。


患者さん側は、「救急外来ではこちらの希望を聞いてくれた。気持ちが変わることだってあるよ」ということだと思います。

しかし、医療者側としては、救急外来の、怪我をしてから時間があまり経っていないタイミングというのは、(もしかしたら頭蓋内出血があるけど、症状を出してないだけかもしれない。家に帰ってから倒れたらどうしよう)という気持ちが少しはあるものです。


それが一晩以上経過して、例えば”外来に電話できている(状態で生きている)”というその事実だけで、(大丈夫だった)という証明になっている訳です。


少なくともそのタイミングで緊急入院して脳外科の手術が必要になるような問題は無い、といえます。

(頭蓋骨にヒビ(骨折)がある可能性や、ごく少量の出血がある(そして止血されている)可能性は、もちろん考慮される訳ですが、やはり入院して手術が必要云々という視点からは検査の必要無しとなるわけです。


ちなみに、そのようなヒビや、ごく少量の出血はどうなるかというと、ヒビ(骨折)は自然に治るのを待つしか無く、出血は吸収されるのを待つしかありません。


外傷や脳卒中の判断というのは、「生もの」みたいな部分があるので、判断・評価は時間の経過にともなって変化するものなのです。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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