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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

くも膜下出血を起こさない脳動脈瘤



一般的に大きさ5mmというのが(日本人では)治療を考える上で一つの基準になりますが、サイズが大きめでもくも膜下出血のリスクは高くないという部分もあります。


代表的なものに『海綿静脈洞部内頸動脈』にできる動脈瘤があります。


どうしてくも膜下出血を起こしにくいのか、というかほとんど起こさないのですが、もちろん理由があります。


くも膜下出血を起こす場所ではないからです。


脳は頭蓋骨の内側にあるわけですが、脳と骨の間には、骨を覆うように硬膜という硬い膜があります。頸動脈は頭蓋骨を貫通し、さらに硬膜を貫通してから、脳に栄養を送るようになっています。


海綿静脈洞部内頸動脈というのは、この骨と硬膜の間にできていて、文字通り「硬い膜」の”外側”にあるため、脳に影響が及びにくいのです。

また、この硬い膜のせいで出血自体も抑えられている可能性もあります。


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この「ほとんどくも膜下出血を起こさない動脈瘤」を、くも膜下出血のリスクが高い動脈瘤と一緒くたに扱うと、統計を取ろうと思ってもおかしな話になってきます。


例えば、1998年にNEJMという一流医学雑誌に発表されたISUIA研究という、未破裂動脈瘤の出血リスクを調べた研究があります。この研究では「10mm未満の未破裂動脈瘤はほとんど出血しない」という結果で、新聞などでも取り上げられましたが、実際にはこの海綿静脈洞部内頸動脈の動脈瘤も含まれており、(同様に傍前床突起部も含まれていたりして、)「いい加減なこと言ってんじゃね!」いうことになりました。


危ない動脈瘤とそうでない瘤は、きちんと分けて話をしなければいけないということです。


・海綿静脈洞部内頸動脈の未破裂動脈瘤はどれくらい出血するのか?


では、海綿静脈洞部内頸動脈瘤(以下CCA)は、どれくらい危なくないのでしょうか?


アメリカ脳外科学会誌にフィンランド大学の研究が掲載されていました。



以前に見学に伺ったことがありますが、フィンランドはいくつかの病院に脳外科を集約していて、少数の脳外科医がたくさん手術しているという仕組みになっています。


フィンランド大学病院は人口220万人程度の地域をカバーしていて、未破裂動脈瘤のデータベースができていますが、それを後方視的に解析した研究です。


そうすると、250人、276個のCCAが登録されていて、平均6.3年経過を見た結果、10人で動脈瘤からの出血があったが、くも膜下出血を起こした人はゼロ。

鼻血を起こした人はいたが、亡くなったひとはいなかった、という結果でした。


この鼻血は動脈から出ているので、それはそれで大変な訳ですが、少なくともくも膜下出血になって、重度後遺症になったり、寝たきりになったりすることは無かったということです。

ただ、(硬い膜に覆われていても)大きくなることはあるので、その場合のみ治療を検討するのが良いのではないかと述べています。


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CCAは眼を動かす神経や、顔面の感覚を司る三叉神経の近くにできるため、これらを圧迫して、「ものが二重に見える」(複視)とか三叉神経痛を起こすことがあります。


自分も複視を治療するため、バイパス手術を行った患者さんがいますが、複視に関しては「自然に治る」場合もあって、この研究でも症状があった方のうち15%は症状が無くなっています。


今の日本だと、CCAが見つかったらすぐ「フローダイバーターステントで治療しよう!」という風潮がありますが、症状が無いうえに、くも膜下出血を起こさない脳動脈瘤を治療する意味は限定的です。

治療自体も合併症リスクがあり(この論文の考察によると3割という報告もあるようです)、経過観察が最善だろうと思っています。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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