top of page
執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

フロー ダイバーター ステントは安全か?

テレビなどで、脳動脈瘤に対する新たな治療として紹介されるフローダイバーターステント(FDS)。


未破裂脳動脈瘤, 血管内手術, 脳神経外科
フローダイバーターステント(PED)

日本では、施設・術者限定、使用した患者は全例登録という厳しい条件で行われている。

つまり技術的にも難しい治療のようだ。

(自分ではできないので、難しさのニュアンスは分からない。しかし、限定されている術者で、専門外の者には学会の重鎮という知識しか無く、「さぞかし(血管内)手術が上手なのだろう」と思っていた人が、専門家に言わせると「そんなに上手くない」という評判だったりするのは、開頭術業界と同様。)


また、ステント1本 1,390,000円(!!) (+ ディスタルサポートカテーテル 88,700円 )(PED, Covidien, USA)。

おいそれと失敗してもらっても困る。(因みにクリッピング術のクリップ1本 20,000円程度。)


ちなみに医療保険で払われるのは1本のみなので、日本では2本目以降は病院が支払うことになり、現実的には無理ということになる。


Neuroradiol J. 2015 Aug;28(4):365-75.


2015年に発表されたsystematic review

FDDによる18本の動脈瘤治療成績の報告をまとめている。


それぞれの報告は20件以上の治療成績が入っていることと、治療後の経過観察期間が明らかになっていること、血管撮影での動脈瘤の閉塞、合併症が明示されていることを条件に集められている。


1413人が治療されていて、平均年齢は54.2歳。56% は10mm未満の小型動脈瘤。11.8%が25mm以上の巨大動脈瘤


9割は未破裂脳動脈瘤に使用されていたが、10%はくも膜下出血の患者さんに用いられていた。

(日本では未破裂脳動脈瘤に対してのみ。他の国でも原則そうなっている。)


90%(1368件)は内頚動脈瘤、つまり比較的 心臓に近く血管の直径が大きい部分で、麻痺になるような穿通枝が少ない部分だった。)


脳梗塞などの虚血性合併症が4.1% (25人に1人)、出血が2.9%(34人に1人)に起こり、後遺症は3.5%に起こり、3.4%が死亡(!)していた。


平均9ヶ月の経過観察で動脈瘤が完全に閉塞していたのは81.5%(69-100%)だった。


20件以上の治療の結果をまとめたreview記事だが、あまりに成績が悪いと そもそも報告されていない可能性があり、検索前にpublication biasがある可能性がある。(その意味で、日本の全例登録の結果は楽しみ)


内頚動脈瘤が90%を占めるが、この中で海綿静脈洞部 (とparaclinoid動脈瘤)はそもそも穿通枝閉塞(脳梗塞)による合併症がほとんど無い。

そのため、この部分を含める/含めないで、死亡率や後遺症の割合が大きく変わる可能性があり、議論を分けるべきだ。


海綿静脈洞部の動脈瘤はおそらくFDDで最も治療されていると考えられるが、FDD以外だと、(腕や足から動脈を採取して)バイパスを作り、頚動脈を止めてしまう治療になるので、FDDの方が治療の侵襲は遙かに小さいだろう。


しかし、そもそもくも膜下出血を来すことは稀であり、どこまで治療するのかという問題がある。


以前に「ものが二重に見える」という症状で見つかった高齢のご婦人で、治療に迷っている間に症状が無くなった方もいる。つまり動脈瘤で圧迫されていた神経の機能が回復した訳だが、動脈瘤が大きくならなければ、症状も改善する可能性があり、この部分に対しては個人的にはあまり治療の意義を見いだせないでいる。


前述のように、途中の枝が詰まっても症状を起こすような問題は稀であり、FDDでも合併症は少ないと考えられるが、抗血小板約を一生(!?)飲まなければいけないという問題がつきまとう。


例えば54歳 (この論文の平均年齢)の人に、「この先 “一生”, この薬を飲み続けて下さい !」というのは、僕には軽々しく言えない。結婚するわけでもあるまいし。


一方、脳底動脈の巨大動脈瘤の場合には、開頭術も通常の血管内手術も、有効性・安全性に疑問符が付くため、他に選択肢がないなら、多少合併症率が高くても仕方ない、となるかもしれない。

(ただし、脳幹梗塞を起こして「閉じ込め症候群」にでもなった日には目も当てられないため、無症状なら、自分なら56歳でも、穿通枝がどこから出ているか、などよくよく検討して「治療せず、余生を楽しむ」という選択をするかもしれない。)


まだ発展途上というか、まだ”はしり”の治療なので、ステントの編み目、線維の太さ・材質などの改良によって主流になっていくのかもしれないが、「予防」の治療のために材料費だけで1,500,000円が海外に流出していくのは、なんとかならないのだろうか。


テルモ頑張って。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page