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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

二刀流ってどうなの ?

これからの脳外科医は開頭手術も血管内手術も両方できなくてはならない、と言われる。


確かに、両方できるに越したことはないように思われるが、実際のところどうなのだろう?

二刀流というときに、思い浮かべるのは動脈瘤の治療に関してだと思うが、これについて考えてみる。


脳動脈瘤,二刀流,脳血管外科
二刀流

日本の脳外科医療の欠点の一つとして、脳外科のある病院が多いために1人当たりの経験症例数が少なくなる、ということがある。


これは患者さんが手術を受ける際に、家から離れた病院に入院して家族はその近くのホテルに滞在する、といった必要がないという点では、患者さんにとっては良い点かもしれないが、治療の質が担保されているという前提だ。


では、きちんと手術できるようになるには、何件の経験が必要だろうか?


開頭術をある程度マスターするのに必要な経験数


自分が卒後3年目のころ、手術が上手なボスに言われたのは、「100件クリッピング手術を(自分で)やれば、大体の脳動脈瘤は治療できる」だった。


実際の経験的としては、「自分で30件」、ということは他のドクターの助手を含めて70件くらい?経験させてもらったころには、割とどの手術も同じなのではと不遜にも思っていた。


(巨大血栓化瘤など)特殊なものを除くと、やっぱりこれくらいの件数をある程度”集中して”経験すればよいように思われる。

(正直、年1件、脳動脈瘤の治療をして30年経っても、一流の脳”血管外科医”にはならないだろう)


血管内手術をマスターするのに必要な経験数


日本脳神経血管内治療学会の”専門医になる”ためには20件の動脈瘤の経験が必要となっている。

専門医を取得するために、血管内手術20件の術者経験が必要ということだが、20件の動脈瘤を術者として経験する必要があるわけではない。


一般の方向けに説明しておくと、脳卒中外科専門医や、残念ながら脳神経外科学会専門医という資格も、治療技術を担保するものにはなっていない(血管内治療専門医は一応実技があるようだが)。


(実際の専門医に、「一人前になるには何件経験が必要か」聞いてみれば、20件と答える人はいないだろう。 問題は、専門医資格取得レベルではなくて、患者さんを治療するのに十分なレベルに到達するのに必要な経験数ということ。)


話を簡単にするために血管内手術のマスターには20件必要とすると、二刀流のために50件必要ということになる。


そこで若手医師として考えなければならないのは、


  • 勤務している施設での動脈瘤治療数

  • 治療に携わる医者の数

で、結局、そこで二刀流になれますか?


そういう環境で、「おまえ、これからは二刀流だぞ!」とだけ言っているのは無責任かもしれないし、「なんとなくそのままやっていれば自分も二刀流になるのかな」と思っているのもナイーヴに過ぎるかもしれない。


しかも、これは取りあえず使える戦力、という程度の二刀流外科医を作ろうという話であって、「俺の手術を見ろぉ!」的なゴッドハンドを要請する話でも無いことに注意が必要だ。



*******************


日赤医療センターでは、血管内手術は血管内学会指導医(入江是明医師)にお任せしている。自分が二刀流になろうと思って、動脈瘤治療で彼のレベルに達する、もしくは自分の開頭手術に遜色ないレベルに達するためには、「ああ、こんなことならクリッピングにしておけば良かった」という経験を何例か繰り返さなければいけないと考えると、患者さんに申し訳ないし、精神衛生上も良くないので既に断念。

どういう疾患なら、どの程度のリスクで治療できるかということだけ、catch upすればよいと考えている。


ただ、動脈瘤の話だけではなくて、血栓回収くらいは出来る方がよい、という意味では二刀流の方がよいと思われる。

(それは、"二刀流"と言うほどのことなのか、という疑問はおいておく)


目の前に塞栓症の患者さんがいて、刻一刻神経細胞が死んでいる状況を想像すると、血栓回収はできるに越したことはないと思う。


両方、同じように一流というのは、よほどのhigh volume centerでなければ難しいのでは?


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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