脳神経外科に今月ローテートしている初期研修医1年目の牧野医師が抄読会でプレゼンしてくれた論文。
J Am Coll Surg. 2014 Nov;219(5):1001-7.
お腹の手術では内視鏡が広く使われているが、胆嚢摘出術などではシミュレーターを用いた練習も可能である。(僕も胆嚢摘出術のシミュレーションはJohnson & Johnson社の施設でやらせてもらったことがある。)
この論文ではまず、医学部の学生55人にこのシミュレーターで基本手技の練習をやってもらい、その後、腹腔鏡下卵管切除術の模擬手術に参加した。
この基本手技練習の際に、friendlyに「誰でもミスを起こしうるから、おかしいと思ったら遠慮せずに言ってくれ」というふうにencourageする指導を受けるグループと、忙しそうにして「俺の言うとおりにやれ。意見は後日聞くから。」という感じでdiscourageするような指導を受けるグループに分けた。
それぞれの医学部生が模擬手術に参加したとき、指導医が一度だけ「凝固手順をすっ飛ばして切除しろ」と(明らかに)誤った指示を出し、学生が、その指示を疑問に感じて「声をあげることができるか」どうかを調べた。
各グループで一般的な決断に関わる評価テスト、自立性/依存性の評価テストでは差はなかった。
結果としては、discourage群よりもencourage群の方が、声を上げる学生が多かった。(Fisher exact test)
学生なので、この指導医(上司)と長く付き合っていかなければならない、という状況ではないし、実際の患者さんではないシミュレータなので、「声を上げる」までもないと考えたのかもしれない。
ただいつも忙しそうにして、いらいらした雰囲気を醸し出していると、声をかけづらいということはあるだろう。
重要なことは、レジデントでも、コメディカルでもいいのだが、「誰でも発言してよい」という場を作ること、発言者の意見が正しければ、それがきちんとチームなり組織の方針に影響を与えられることであろう。
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この論文の背景としては、米国では10,000人が医療事故で亡くなっていて、手術中のミスもその数に寄与しているが、その半数は防ぐことができるという報告がある。
手術のミスに気付くのは誰でもよいのだが、その時に、(権威者である) 術者に対してミスを指摘できるかどうかという問題意識が発端となっている。
比較的最近、「ボスの鶴の一声で全部決まってしまい、振り返りがない」とか、「まともな意見を言っていた人が異動時期でもないのに異動になった」という話を耳にしていたので、個人的にはタイムリーにツボにはまるプレゼンテーションだった。
これからも頑張って下さい、牧野先生!
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