救急患者さんの中には「何日か無断欠勤しているので、不審に思った同僚の方が自宅を見に行ったら倒れていた」という方もしばしばいる。
脳外科なので、脳卒中の方が多いのだが、倒れた原因である脳卒中に加え、大体身体のどこかに褥瘡(床ずれ)が既にできている。
特にうつぶせになっていたりすると、鼻や頬に褥瘡があって、見た目的な問題も生じる。
また、24時間以上助けも呼べない状態なので、失禁や汗のすえた匂いをまずなんとかしなければならないこともしばしばある。(救急外来のスタッフにはいつも感謝です。)
しかし、我々が目にするのは、それでも生きている方だ。
もう数日、あるいは数時間発見が遅ければ亡くなっていたのだろうが、発見がさらに遅かった方は孤独死とか孤立死という形で問題になる。
FBかTwitterのタイムラインに特殊清掃を題材にしたマンガの広告が流れてきたりして興味を持っていたが、孤立死に関するルポルタージュもいろいろ出ていて、下の本を手に取った。
孤独死予備軍が1000万人いるというのは、いまいちピンとこない数字なのだが、東京23区内で「1日あたり」20人が孤独死しているということに衝撃をうけた。
ちなみに、孤独死・孤立死には明確な定義がないということで、「腐敗が始まる」死後48時間以上経過してから見つかるのを孤独死としているようだ。
(この定義も生々しい)
ニュースなどで近所の住民が異臭に気付き、警察に届けるという刑事事件がしばしば報道されるが、孤独死された方も、そういう異臭で発見されることも多いようだ。
しかし、今の機密性の高いマンションや戸建て住宅では、この異臭がするという段階はかなり腐敗が進んでいる段階。
そしてその臭いが部屋に染みついているため、特殊清掃が必要になるということだろう。
発見が間に合って生きている方でさえかなりの臭いがするのだが、これは強烈な臭気だろう。
興味深いのは、ハエが屍臭に寄ってくるのがかなり早いということ。そして亡くなった方を見つけると鼻腔などの粘膜に卵を産み付け、蛆が蛹になって孵化して、また卵を産んで...
このサイクルが何サイクル起こっているかで、亡くなった時期を推定することも可能という。
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独りで暮らしている場合、亡くなるときに周りに誰もいない、ということは一定程度、避けられないことだと思うが、腐敗して見つかるというのは、さすがに誰もが避けたいと思うのではないか。
マンションや団地などで、住んでいる方のコミュニケーションのネットワークから外れ、孤立している人を可視化して、孤独死を防ぐための取り組みが紹介されている。
その中で、孤立しているように見えても「特定の誰か」とはコミュニケーションがとれる、「だったら、その人からアプローチしてもらうようにしよう」といったところは人間関係の奥深さがあって面白いと思った。
また、象印マホービンの「みまもりほっとライン」などで、離れて暮らしている親が「生活している」かどうかを確認する、という製品があるのは知っていたが、(出版時で)累計1万台売れているらしい。
本書でも述べられているが、特に親に定期的に連絡を取るというのは、なんとなく気恥ずかしいし、面倒に思う。お茶を淹れている、という間接的な情報の方がお互い楽な距離感なのかもしれない。
ただ親子関係が維持できているのはまだましな方のようで、このように見守ってもらう人がいない、そういう人がどうしても取り残されてしまうようだ。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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