抄読会で読まれた論文
J Neurooncol. 2018 Dec;140(3):659-667. doi: 10.1007/s11060-018-2996-0. Epub 2018 Sep 8.
Wirsching HG, Richter JK, Sahm F Morel C, Krayenbuehl N, Rushing EJ, von Deimling A, Valavanis A, Weller M.
髄膜腫は最近では俳優さんが手術したことで少し話題になった、最も多い良性脳腫瘍だ。
これは脳自体から発生するのではなく、頭蓋骨の内側を覆っている膜(硬膜)から生えてくるタイプの脳腫瘍で、実際には脳の外側にできるのだ。
そのため、脳とは別の血管から栄養を受けており、タイプによっては結構出血することがあるため、手術前にカテーテル治療でこの血管を詰めるという手技(術前腫瘍塞栓)がある。
硬膜は脳を包んでいる構造になっており、そこから生えてくる髄膜腫も、この硬膜から栄養が入っている。
術前塞栓では、この硬膜の血管と、そこから腫瘍の中に入って腫瘍に栄養を送っている血管の枝を詰めてしまうのだ。
そうすることで、腫瘍を取り除く際の出血を減らすことができる、と言われている。
ただ、多くの場合、開頭して腫瘍にアクセスする前に、この血管を切断したり、電気で灼いたりすることができるので、「それ必要か?」ということが大半だ。
むしろ、大きい腫瘍で、脳側の血管からも血流が入っている場合、処理が一番最後になってしまうため、「これをなんとかしてほしい」と思うことはある。
しかし、実際には脳に栄養を送っている血管にも詰めもの(塞栓物質)が流れていくと脳梗塞になってしまうため、リスクはいきなり高くなり、それなら要らない、ということになる。
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この論文では、従来からある、出血量が減るかどうかではなくて、心筋梗塞や肺塞栓などの合併症が塞栓を行うことで増えないかということを調べた。
ちなみに著者らの所属するZurich大学はG. YasrgilやProf.Yonekawa, H.Bertalanffyらがいた脳外科の名門施設。
3ヶ月以上経過を追えた741人の髄膜腫の患者さんで、42%の患者さんが術前塞栓を受けていたが、心血管イベント(多くは肺塞栓と深部静脈血栓症)のオッズ比は2.38、つまり2.38倍塞栓を行った患者さんの方が有意に多かった。
腫瘍再発までの期間も調べているが、再治療に最も関連していたのは、当然、腫瘍の悪性度(髄膜腫は原則良性腫瘍だが、中には再発するもの、組織学的に悪いものもある)なのだが、WHO 分類IIとIIIの中では塞栓術を行ったグループの方が再発が早かった。
741例とかなりの数を解析しているが、塞栓を行った患者さんの方が、大きい髄膜腫であったり、術前浮腫が強かったり、あるいは手術時間が塞栓を行ったグループの方が「長い」など、かなり「塞栓を行うかどうか」についてバイアスがあったとしか考えられない。
つまり、手術が難しそうな髄膜腫だから、術前塞栓術を行った可能性が高い。
なので、この結果をもとに、「術前塞栓はやるべきではない」とは言えないが、個人的には「やっぱり必要ないな」という印象だ。
前職でも、「塞栓術を行ったら合併症が出て失語(言葉がうまくしゃべれない)になり、リハビリが必要になった。病院と折り合いが悪くなったため、手術目的に紹介」という方を担当させていただいたが、「これ、詰める必要あるか?」というような病変だった。
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個人的に問題だと思っているのは、脳血管内治療専門医というカテーテル治療の専門医資格申請のために、この術前腫瘍塞栓という治療の件数が必要ということである。
つまり、不要と思っていても、合併症リスクのある塞栓術をするインセンティヴになっている。
カテーテル専門医に聴くと、「動脈瘤と違って、(脳の血管を詰めるわけではないので)塞栓術の手始めとしては安全だからですよ」と言っていたが、そういうスタンスだから合併症が起こるのではないだろうか。
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