脳動脈瘤が見つかった方に、よく「薬で治るとかはないんですよね?」と聞かれる。
残念ながら、今のところ、脳動脈瘤を治せる薬はないが、思考実験としてそのような薬を処方できるようになるだろうか?
例えば、脳動脈瘤を治す薬ができれば、それは保険適応のある薬になりうると考えられる。
つまり、何ヶ月か飲むと、「治る」という薬。
ごく稀であるが、脳動脈瘤が自然に消えてしまう、というか血液が中に入らなくなって、徐々に小さくなっていくことがある。
自験例では、動脈瘤の内部に血栓ができて血液が流れ込まなくなり、サイズも徐々に小さくなっていった。
一方で血栓化動脈瘤は以前からくも膜下出血の危険因子、つまり出血に繋がるとされているので、なかなか難しいところ。
なので、出血させずに血栓化だけを進ませるような薬がもしできれば、それは動脈瘤の治療薬になるだろう。
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では出血しにくくする薬があったら?
血圧が高い患者さんに関しては、今でも「出血率を下げる」つまり出血しにくくしているわけなので、既にあるとも言える。
しかし、そういう「ついでに(?)」くも膜下出血予防効果があるという薬以外には、以下のような理由で、なかなか処方薬となるのは難しいだろう。
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病院で処方される薬は、臨床治験という試験を経て、患者さんに使用できるようになっている。
くも膜下出血を予防する薬で、そういう治験が組めるだろうか?
例えば、くも膜下出血を起こすリスクが年間に5%あるグループが同定できたとして、「手術(根治的治療)はなしで、薬か偽薬(プラセボ)」を内服してもらいます。」という治験をデザインする。
その結果、"内服しているグループでは出血率が3%になりました!" となるかもしれない。
しかし、治療リスクが無茶苦茶高い方以外では、このような研究デザインだと患者さんが集まらないだろう。
つまり、薬を飲むより開頭手術か血管内手術を選ぶ方が、不確実性が小さいと思うからだ。
処方薬になったとして、ちゃんと説明を理解して、5%が3%になる、という理由では(手術ができないなどの理由がなければ)内服治療は選べないだろう。
少なくとも自分だったら、怖くてそんな試験には参加したくない。
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それでは小型動脈瘤なら、くも膜下出血のリスクが小さいから、治験が可能では?
これも5mm未満で、1個だけ動脈瘤を持っている人の出血リスクは0.3%内外だが、今度は必要な患者さんの人数がかなり大きくなる。(年間0.75%のときsample sizeは4,575人年必要(UCAS Japanから)
治験が組めて、有効性が確認されたとして、年間0.5%(200人に1人)のリスクをさらに下げるのに、いくら払うかという問題が出てくるかもしれない。
しかも、「治る」のでなければ、いつまで薬を飲むのだろう?
動脈瘤の組織(つまり動脈瘤そのもの)を切り取ってこういう研究にも少し貢献させていただいてはいるが、実際の臨床応用には大きなハードルがあるように思う。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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