脳神経外科 木村 俊運のページ
脳外科手術をより安全に
2022-11-09
三叉神経痛の治療には、内服薬、手術、γナイフ・サイバーナイフなどの定位放射線治療があります。
(三叉神経痛の治療についてはこちら)
手術治療は、典型的な三叉神経痛では90%以上の患者さんで、顔面のしびれなどの違和感も生じず、治癒(=通院不要)にいたることが期待出来る良い治療だと思いますが、残念ながら数%の方で再発することがあります。
再発の理由は患者さん毎に評価する必要がありますが、もし再度MRIを撮影して、三叉神経に何かが当たっているならば、再手術の対象になると考えています。
(他の病院で手術を受けた患者さんの)再発例の手術のtipsをビデオとともに投稿した症例報告がヨーロッパ学会誌に掲載されました(Acta Neurochirurgicaページへのリンク)。
実はもともとは、同学会誌で“合併症とリカバリー”というテーマでの募集があり、それに投稿したもので「再発三叉神経痛の手術で動脈損傷が起こったが、血管を縫うことで事なきを得た」という内容だったのですが、『血管が縫えないことや、詰まってしまうことだってあるだろう?』という判断で却下されたものを編集し直したものです。
確かに、再発三叉神経痛の手術は、初回手術よりずっと難しいものになりますが、(技術的な面も含めて)きちんと準備できていれば、検討してもよいと考えています。
2021-03-31
顔面痙攣や三叉神経痛は、10円玉大の開頭で手術することができます(もちろんもっと大きい開頭でもできます)。福島孝徳先生がテレビで鍵穴手術と呼んでいる方法です。
開頭のサイズは取り上げられることが多いものの、実際には術後の美容的な面や、痛み・不快感にはそこまで影響しません。しかし、特に顔面痙攣の手術では、開頭部分が数層の筋肉の奥になりますが、筋肉を雑に扱うと、手術後に痛みが続いたりすることがあり得ます。
そこで、「本当に切らないと行けない部分は何か?」を突き詰めた方法論を、ヨーロッパ脳外科学会誌の「私はこうやっています」というコーナー(査読付き)に投稿し、掲載されました(Acta Neurochirurgicaページへのリンク)。
開頭自体は直径20mm、1円玉サイズですが、そのアクセスのために必要最小限は何かということを書いた内容です。
顔面痙攣は脳外科の中では数少ない、生命に関わらない病気ですが、ご本人の中では非常に鬱陶しいものです。また美容的な要素もあるので、できるだけ身体への負担を少なくし、早く日常に戻れるように、という手術を心がけています。
2020−03−06
2008年から行っている「アテローム性血栓性脳梗塞かつ進行性脳卒中に対する急性期EC-ICバイパス」、case seriesですがヨーロッパ脳神経外科学会誌に掲載になりました。
脳梗塞にはいくつかタイプがあります。
その中で、高血圧やコレステロールが高い状態が長期間続き、アテロームという”あか(垢)”が血管の中に貯まって起こる脳梗塞があります。ちょうど、心臓の冠動脈に垢が溜まって心筋梗塞を起こすようなものです。
このタイプの脳梗塞に対しては、抗血小板薬という、いわゆる「血液さらさらの薬」による内科的な治療が基本となり、それに加えて点滴を多めにいれて、血液を希釈・血管を膨らませるようにしたり、血圧を上げて、詰まっている部分を通る圧を上げたりという治療を行います。
しかし、このような治療を一生懸命行っても、症状が出たり消えたり、あるいは悪化して脳梗塞が広がったりすることがあります。
このような、「進行性」脳卒中に対して、脳のバイパス手術というオプションがあるんじゃないか、ということが言われており、世界中でいくつかの病院から報告があります。
自分自身も2008年からこの治療を行っており、病院を異動するまでに行った35人の患者さんのデータをまとめて、投稿したのがこの論文になります。
日本では、他の国では使われていない点滴を薬を使っていたり、ほとんどが入院後3日以内に悪化し、高齢の患者さんが多いこともあって十分な検査ができていなかったりして、データにばらつきがあり、論文の採否を決める編集者とのやりとりには苦労しました。しかし、薬の治療だけでは症状の悪化を”指をくわえて見ている”だけになってしまうところ、(どこでも可能という訳にはいかないと思いますが)選択肢を提示できたのではないかと思います。
2019-07-01
脳梗塞にはいくつか種類があります。最近テレビなどで「カテーテルで詰まっている血栓を取り除いて、脳梗塞が完成するのを防ぐ」といった内容の報道がされることがありますが、あれは原則としては「心房細動」という不整脈で、心臓の中に血栓ができ、それが流れて脳の太い血管が急に詰まるタイプ(脳塞栓)の話です。
それ以外の、例えば動脈硬化で10年以上かけて細くなったり、詰まったりする場合には別の方法が必要になります。動脈硬化で頚動脈(内頚動脈)が完全に詰まって脳梗塞を起こす方もいますが、このような場合、数週間で詰まった部分が細々とですが流れるようになることが知られています(おそらく10人に一人程度)
この場合は頚動脈にたまった垢(プラーク)を取り除いたり、風船で拡げたり、という治療が、脳梗塞の再発を予防するために有効です。
このプラークを取る手術を予定していたら、その3週間程度の間にまた詰まっていたけど、手術でなんとか通せました、という珍しい経験を、武田君が報告してくれました。
ぎりぎりの細さだと、詰まったり再開通したりが我々が思っているよりもダイナミックに起こっている可能性があります。
2019-05-31
血行力学的脳虚血のある患者さんで、浅側頭動脈が使えない場合に、後頭動脈を用いて前大脳動脈領域の血行再建を行った、という症例報告が英国脳外科学会誌(British Journal of Neurosurgery)に掲載されました。
(患者さんを担当してくれていた丹羽良子先生が書いてくれました。)
動脈硬化の問題で前大脳動脈領域の血行再建が必要になることは比較的稀で、しかも浅側頭動脈が使えないという状況は限られており、そのまま使える患者さんというのはかなり限られています。
むしろ、そのような場合には後頭動脈が発達しているので、丁寧に剥離すれば、かなり長いdonor血管として利用できることができる、ということの方が重要あり、手術のオプションとして知っておくほうが良いのでは、というのが投稿理由です。