脳神経外科 木村 俊運のページ
脳外科手術をより安全に
神経鞘腫
聴神経腫瘍
聴神経は「聞こえ」をつかさどる蝸牛神経と、身体のバランスなどのはたらきを担う前庭神経からできています。この前庭神経から良性腫瘍ができることがあります。
突発性難聴や高音が聞こえづらい方がMRIを撮影した際に見つかることがあります。
聴神経は、内耳道という頭蓋骨の内側にある小さな穴に入って、聞こえや三半規管と繋がっています。聴神経腫瘍では、この小さな固い穴の中で腫瘍が大きくなり、典型的には「くわい」のような形になります。骨の部分で神経自体が圧迫され、症状が出てきます。
特に蝸牛神経は、「弱い」神経であるため、最初の症状として現れます。
腫瘍自体は前庭神経から発生しますが、前庭神経の働きは反対側が徐々に機能を肩代わりする形になるため、この腫瘍のせいで、ひどいめまいを起こすことは稀です。
一方、ふらつきや三叉神経痛の原因検索で、大きめの聴神経腫瘍が見つかることもあります
聴神経腫瘍の治療
小型の聴神経腫瘍が見つかった場合には、まず「治療する」「治療しない」という選択肢があります。
ごくごく稀に3ヶ月・6ヶ月という単位で増大する聴神経腫瘍もありますが、多くは非常にゆっくり大きくなるか、大きくならないものもあります。
(さらに、ときどきですが自然に小さくなるものもあります。)
*嚢胞といって内部に液体が貯まっているものは、比較的早期に大きくなる場合があります。
小型の聴神経腫瘍を治療する目的としては
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聴力を温存する
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今後増大して症状を出してくるかもしれないので、小さいうちに治療する
ということが考えられます。
治療方法としては2通りあり、
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開頭手術(耳鼻科的手術を含む)
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定位放射線治療(サイバーナイフ、ガンマナイフ)
があります。
聴力以外に症状がない場合、特に小型の聴神経腫瘍では定位放射線治療により良好な制御(つまり、大きくならない)が得られると言われています。
個人的には、小型の聴神経腫瘍に対しては、すぐの治療はお勧めしません。
その理由としては
1. 聴力温存を目的としても、必ずしも聴力を温存できない。(有効聴力温存率60%といっても、患者さんが5人いたら2人は”手術が原因で"聞こえなくなります。)
2. 腫瘍が出来ている側の前庭神経の機能はほとんど残っていないはずですが、術後ふわふわする感じが残る方が多いです。
(これは自分の親族からの聴取ですが、3年くらいで気にならなくなるようです。)
3. ガンマナイフでも、(大きさは制御できるが) 聴力低下が進む。
4. 経過を見ていても、大きくならない方が多い。
そのため、とりあえず小型の腫瘍で見つかってすぐの場合は、経過観察が第一選択と考えます。
* 聴力に関して、「解剖学的温存率」という成績を示している方もいます。
「見た目上は神経が残っていたのに、聞こえなくなっていた」ということのようですが、現実的には機能がなくなった、ということなので、この記述は意味はないし、不誠実だと考えます。