top of page
  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

重症頭部外傷の脳外科手術、骨を外すか、戻すか?

更新日:2023年10月5日

先月のNEJMに載った論文


British Neurosurgical Trainee Research Collaborative, NIHR Global Health Research Group on Acquired Brain and Spine Injury, and RESCUE-ASDH Trial Collaborators; RESCUE-ASDH Trial Collaborators


交通事故や転落などで頭を強くぶつけると、脳を包んでいる硬い膜(硬膜)と脳の間に血が溜まり、脳を圧迫して生命に関わる急性硬膜下血腫という病態があります。


実際には脳の一部が傷んでいて、その部分の動脈から出血していたり、太い静脈が切れていたりして、そこから出た血液が溜まっています。


溜まった血液を取りのぞき、出血している部分を止血すればOK、ということもありますが、実際には、くも膜下出血も伴っていて髄液の循環が悪くなっていたり、脳全体に衝撃が加わっていたりするので、手術後や、場合によっては手術中に脳が腫れてくることが多いです。


脳は柔らかい組織ですが、頭蓋骨という硬い容器の中で腫れてくると、頭蓋骨の内側の圧(頭蓋内圧)が高くなるため、脳にうまく血流が流れなくなり、脳梗塞を起こして、さらに腫れる、という悪循環に陥ってしまいます。


そのような、頭蓋内圧が高くなりすぎないように、頭蓋骨を大きく切り取って、骨を戻さずに皮膚を閉じてくる減圧開頭術を行うことがあります。

というか、むしろ重症の頭部外傷では多いです。


脳外科手術,くも膜下出血
減圧開頭後のCT写真




そうすることで、頭蓋骨の厚みの分と、皮膚が多少でも伸びる分、脳に加わる圧を減らすのです。


「頭蓋骨が無かったら大変じゃないの?」はもちろんそうですが、脳が腫れているのは1週間程度の一時的な問題なので、腫れが引いて圧が下がったら、再度、骨を戻す手術を行うことが多いです。

(もちろん、いのちが助かった場合です)


ただし、全ての重症の急性硬膜下血腫の患者さんで、骨を外した状態にするのがいいか?というと、必ずしもそうではありません。

中には、血腫を取りのぞいたら、脳の色調や拍動も問題無さそう、ということはあるからです。


そのような場合には骨を戻しても、実際、問題ない可能性があります。

また、重症の外傷では頭以外にも出血しているせいで、血液を固まらせる成分が少なくなって、血が止まりにくくなっていることもよくあります。

骨を戻すことで、包帯を”きつく”巻くことも可能になり、皮膚からの出血を抑えられるメリットもあります。

(骨を外して、強く包帯を巻くと、何のために骨を外したのか分からなくなります)。


*************


そこでこの論文ですが、

「手術中に、骨を戻しても大丈夫そう」と思われた患者さんを、「骨を戻すグループ」と「戻さないグループ」にランダム化して、その予後を比べています。

その結果、どちらでも、死亡・植物状態になる割合に差は無かった、という結果でした。


タイトルと結果(conculsion)から、「骨を戻しても戻さなくても予後が変わらないなら、戻さなくてもいいのでは?」と、最初は思ってしまいました。

しかしよく読むと、実際には「術者が、『これは減圧開頭でないとだめだ』と判断した患者さんは、通常通りに減圧開頭されており、それ以外の、『戻せそうだけどな...」というケースをランダムに「減圧グループ」と「骨を戻すグループ」に振り分けた研究でした。


経験的に、どちらでも良さそうに思われる患者さんは

①脳のダメージが少ないか、

②高齢でもともと脳が萎縮していて、腫れてもそれほど圧が高くならなさそうというどちらか、もしくは両方のことが多いです。


それでも興味があるのは、「じゃあ、骨を戻せそうだと思ったけど、やっぱりダメだった(脳が腫れて、再手術が必要になった)」というのが、実際、どれくらいの頻度で起こるのか?ということです。


抄録(abstract)にもありますが、骨を戻した群では2週間以内に14.6%に外科的治療、おそらく骨を外す手術が必要になった、ということでした。


7件に1件。


この数字が大きいと考えるか、小さいと考えるかは、人によると思いますが、個人的には初回手術後、すぐに手術室に戻らなければいけないのは非常にストレスです。

また、本人は意識がないかもしれないにしても、ご家族の心労的にも「また手術?命は大丈夫なの?」というのは避けたいと考えます。


また、集約化されていない日本の病院では、「やっぱり骨を外さないとダメだ!」となったときに、必ずしも都合良く手術室に空きがあって、すぐに執刀開始というわけにもいかないでしょう。

そうすると、治療のタイミングを逸する可能性もあります。


なので、「戻せそうと思った場合は85%大丈夫」でも、デフォルトは戻さないのが正解かなと思っています。(あくまで術中所見次第ではありますが)


*************


しかし、研究のデザインとしてはよくできていて、血腫を取ってから、ランダム化(「減圧グループ」と「骨を戻すグループ」に分ける)というのはよく考えたな、と思うわけです。


ただその一方で、研究への参加については、おそらくご家族に説明して同意いただいているはずですが、自分の大事な人が「そのままでは死ぬか、助かっても植物状態になるので手術が必要」という、緊急でやらないといけない手術の説明を受けていて、

「ところで、こういう研究があり、手術中の所見によっては参加いただきたいのですが。あ、嫌なら途中で辞退されても大丈夫です」

のような説明を、冷静に、十分理解できる人がそれほどいるとは思えず、倫理的に微妙な部分があるのでは、と思っています。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

最新記事

すべて表示

くも膜下出血を起こさない脳動脈瘤

一般的に大きさ5mmというのが(日本人では)治療を考える上で一つの基準になりますが、サイズが大きめでもくも膜下出血のリスクは高くないという部分もあります。 代表的なものに『海綿静脈洞部内頸動脈』にできる動脈瘤があります。 どうしてくも膜下出血を起こしにくいのか、というかほとんど起こさないのですが、もちろん理由があります。 くも膜下出血を起こす場所ではないからです。 脳は頭蓋骨の内側にあるわけですが

Comentarios


bottom of page