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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

関西の?血管内手術の成績2

更新日:2023年6月20日

前回につづき、神戸市民病院からの論文について。


AJNR Am J Neuroradiol. 2020 May;41(5):828-835. doi: 10.3174/ajnr.A6558. Epub 2020 May 7.


著者らはくも膜下出血を起こした動脈瘤についても同様の解析を行い、 modified Raymond-Roy分類(下図)でIIIbの再開通を起こした患者さんで、またくも膜下出血が起こったとしている。



再開通自体はコイル塞栓術を行った169人のうち37人に起こり、そのうちの16人に再治療が行われた。

のこりの21人のうち4人にくも膜下出血(の再発)が起こった。

これも、観察期間を考えると(最初の治療後の)出血率は0.97%だった、としている。

(ただしくも膜下出血を起こして1ヶ月以内に再出血した動脈瘤は除いて解析している)


(未破裂動脈瘤の治療後の患者さんでも)くも膜下出血を起こしたのは図のIIIbものだった。なので、このような形で再発が認められたら、早期に治療する方がよいという結論だ。


しかし、表を見ると、再発が認められた動脈瘤は4割以上は治療を受けている。

しかも、開頭手術専門の医者が見ても危ないと思う、blebが出てきたようなもの(図右下赤矢印)は、当然再治療を行われている。

なので、何らかの理由で治療されなかった再開通を起こした動脈瘤の中で4件のくも膜下出血が起こったということだが、結局、

『再開通したら治療しないと、また出血するよ』

ということであろう。


(この論文から「IIIbが危ない」⇒じゃあ、再治療しよう⇒全体としては出血が減少。

⇒未来の同じような解析;blebもIIIbも治療された後に残っていたIIIaから複数の患者で出血

⇒「IIIaの再開通はリスクが高い」という論文ができるかもしれない。)


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(以下はいつもの観察期間絡みの話)


しかし、神戸市民病院は『神戸の最後の砦』のような病院なので、当然、くも膜下出血の患者さんも軽症の方だけでなく、重症の方も多数運びこまれるはずだ。




重症の患者さんは、残念ながら、亡くなったり、場合によっては植物状態になってしまう方も多いと考えられる。


そのため、未破裂動脈瘤と比べると「平均」観察期間が短くなっている。

未破裂脳動脈瘤58.5ヶ月(24.0-86.0) vsくも膜下出血18.0ヶ月(3.0-48.0)。


つまり、未破裂脳動脈瘤の患者さんは5年くらい経過を見た結果を報告しているが、くも膜下出血の患者さんについては、平均1.5年程度しか追えていない。


そして、冷静に考えると、重症で植物状態になってしまった患者さんの動脈瘤を、保険(=税金)で調べるというのは抵抗があるだろう。

(少なくとも自分が払った税金がそのように使われているとは思いたくない)


もちろん48ヶ月(4年間)経過を追えている患者さんもいるが、治療後、少なくとも家庭に復帰されている患者さんたちであろう。


結果的に、動脈瘤の経過を追えてない患者さんが多数いるはずであり、これを未破裂脳動脈瘤と同じように解析するのは、意図的かどうかはともかく、だいぶ精度が落ちると思われる。


こういう場合には、何人の患者さんの経過を追えていて、その中でどれくらいの割合の方で再開通(出血)したかを示す方が一般的である。

生存曲線を描けば、打ち切り(censor=経過観察不能)になる患者さんが、調査の初期に多発していることが明らかなはずだ。


しかしながら「重症の方も経過を見られていたら、どういう結果になったか?」については分からない。

「助かりそうにないから、コイルの本数を減らして医療費を少なくしよう」という考え方を、日本の脳外科医は普通しないので、回復した患者さんと同じように詰めているのだと思う。

一方、重症者では、一般的に大きい動脈瘤や、「出血のときに空いた穴」が大きいことが多いので、これまでの統計を考えると、再開通のリスクは大きいはずであり、今回のデータが再開通(出血)の件数を少なく見積もっている可能性の方が高いのではないだろうか


もちろん著者らも、そういうことは分かっているだろうから、未破裂脳動脈瘤との対比ができるように同じようなレイアウトにしたのかもしれない。


しかし、情報の密度(精度)が大分落ちることになるので、やはり経過を追えている患者さんの「割合」が高いと思われる未破裂脳動脈瘤のデータと、くも膜下出血の方のデータを、同じように並べて示すのはミスリーディングだと思われる。


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注;AJNRは米国神経放射線学会によって発行されている神経放射線学をカバーする月刊の査読付き医学雑誌で、impact factor 3.653 (2017)。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)



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