実は研修医(やtrainee)が手術している?というのは、全身麻酔で意識がなくなる患者さんにが不安に思われるところである。
ま、それとは少し異なるが、(脳内出血などの緊急手術でない)予定手術で、どれくらいレジデントが関与してよいか、というのは、病院側にとっても重要な問題であり、脳外科だけに限らず、外科系全般において言えることだ。
外科医は「切ってなんぼ」という面があり、座学のみで一流の外科医になることはまずないだろう(VR技術に期待)
世の中には脳外科塾とうたっている病院もあって、「"教材"はどうなってるの?」と思うのだが、ここでは言及しない。
そこでOpen Access Journalではあるが、「頚動脈狭窄症に対する内膜剝離術で、trainee(専修医といったところか?)がやっても、手術の成績は変わらなかった」という論文が出ていた。
Ann Med Surg (Lond). 2019 Jan 21;39:1-4. doi: 10.1016/j.amsu.2019.01.001.
内頚動脈内膜剝離術(CEA)は、脳梗塞の原因になる頚動脈にたまった垢(プラーク)を、血管を開いて取り除き、また縫ってくる、という手術(詳細はこちら)で、自分は医者2年目後半から執刀医としてやってきており、後期レジデントなどの監督をすることもある。
再発(再狭窄)の手術や、放射線治療後などの特殊な条件を除けば、プラークの上端(脳側の端)がどこまであるかによって手術の難易度が変わってくるが、基本的には”定型手術”であり、このような比較が一応可能ともいえる。
動脈硬化が問題となっている国・地域で多い手術であるが、脳卒中の予防効果という面では、内科的治療と比較される。
そのため、合併症率が高くなると内科の医師から「薬で治療する方がよい」と集中砲火をあびることになる手術だ。
論文の内容を見てみると、121人(男性76人、平均年齢70.3歳)に治療を行い、Clavien-Dindo分類 という合併症の分類でIII-Vの重い合併症が23.1%に見られた(術後30日以内の死亡 = 3)。
… って、比較する前に成績が悪すぎるのでは。
Consultant(上級医)とtraineeで結果を比べると、consultantは24%の重大合併症、traineeは21.3%で有意差は無かったとのこと。
要するに、どっちも合併症が多すぎて差が付かないということなのではなかろうか。
確かに、日本人と比べると欧米人の方が太っている患者さんが多いと考えられ、その点では手術が難しくなっている可能性はある。しかし、5人に1人大きな合併症を起こしていたら、手術にならないだろう。
特に内頚動脈狭窄症に対しては、ステント留置術が多く行われるようになってきており、日本でも7割くらいはステントで治療されている現状を考えると、競合し得ない、ありえない成績である。
最初の個人的なクエスチョン 「研修医が手術しても安全か?」に関しては、この結果からは「この施設では誰がやっても同じく悪い成績であり、研修医にさせてはいけないとは言えない」ということでは?
NHS(英国の保険)がステントの適応を拡げれば、イギリスではすぐにこの手術は廃れるだろうと思われる。
この論文に関して、研究内容は倫理委員会が承認したということだが、倫理委員会には別の仕事があるのではなかろうか。
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もう開業された師匠の一人が、「下手なやつほど下にやらせたがる」と仰っていたことがあったが、もしかすると、そういう風土があるのかもしれない。
研修医やtraineeの教育も大事だが、まずは施設の成績をトップクラスにして、その内容を教え込む、というふうにしなければ、下手な外科医が量産されるだけだろう。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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