静岡赤十字病院の天神先生の論文
脳卒中の外科, 2021, 49 巻, 1 号, p. 38-41,
天神 博志, 齋藤 靖, 徳山 勤, 川勝 暢,
タイトルの妥当性はともかくとして、内容というか、研究のきっかけは「そうですよね」という論文。
つまり、
「未破裂脳動脈瘤のスクリーニングは有用と考えられるが、どのような人をスクリーニングするべきかはいまだ明らかではない」ので、実際に治療を行った患者さんと、同病院でドックを受けた方の属性を比較しています。
2016年から1月から18年9月までで、脳ドックを受けた人のうち566人と、未破裂脳動脈瘤に対する治療をおこなった35人を比較。
その結果、治療を受けた方は、単に脳ドックを受けた方と比べると、1.女性、2.高血圧、3.脂質異常症、4.過去に脳梗塞など脳血管障害を患ったことがあること、5頭痛があること、が割合として有意に多かった(χ二乗検定)
興味深いのは、同病院でドックを受けた566人の中には、治療対象になるような動脈瘤の方がいなかったということです。東京のクリニックからの報告では、5mm以上の動脈瘤が見つかるのは1000人に3人程度なので、特に不思議なことではありません。
この566人に他の病気がたまたま見つかった可能性もありますが、一般的に脳ドックは効率が悪いのです。
著者らは「当院での脳ドックは企業健診が多く、したがって男性が多かった=治療が必要な脳動脈瘤を見つける上で効率が良くない」
「(一般人口と比べて、ドック受診者の喫煙率は低く)健康志向が高い人ほど脳ドックなどの脳動脈瘤スクリーニングを受けている可能性がある」としています。
(強制ではない)健診一般の問題として、この「本当に受ける方がよい人が受けていない」「そういう人にリーチできていない」ことが挙げられます。
つまり、脳ドックを受ける方だと、「毎年脳ドックを受けています」「3年毎に健診に脳ドックのオプションをつけています」という方が多く、気になる方はリピートして受けています。(それで予防可能な病変が見つかることは、実際にはあまりありません)
本当は、「10年くらい血圧が高いと言われています」という人とか、20年以上タバコ吸ってる人、歯科検診を受けない、歯槽膿漏を放置していてどんどん歯が抜けていっている人など、医療機関に対して距離をとっている人の方が、「治療するほうが良い病気 (大きめの未破裂脳動脈瘤など)」が見つかる可能性が高いはずです。
そしておそらくこういう方々が受診される方が、実際に脳卒中を起こして生活の質が下がる本人のみならず、社会的なコストを減らす上でも重要なはずです。
(一方で、リスクの低い、例えば3mmくらいの動脈瘤が見つかった場合に、それを保険診療(つまり税金)で経過を見るべきかというのは悩ましい問題。)
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
Comments