top of page
執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

誰を検査すればいいのか

更新日:2021年8月4日

静岡赤十字病院の天神先生の論文


脳卒中の外科, 2021, 49 巻, 1 号, p. 38-41,

天神 博志, 齋藤 靖, 徳山 勤, 川勝 暢,


タイトルの妥当性はともかくとして、内容というか、研究のきっかけは「そうですよね」という論文。

つまり、

「未破裂脳動脈瘤のスクリーニングは有用と考えられるが、どのような人をスクリーニングするべきかはいまだ明らかではない」ので、実際に治療を行った患者さんと、同病院でドックを受けた方の属性を比較しています。

2016年から1月から18年9月までで、脳ドックを受けた人のうち566人と、未破裂脳動脈瘤に対する治療をおこなった35人を比較。

その結果、治療を受けた方は、単に脳ドックを受けた方と比べると、1.女性、2.高血圧、3.脂質異常症、4.過去に脳梗塞など脳血管障害を患ったことがあること、5頭痛があること、が割合として有意に多かった(χ二乗検定)


未破裂脳動脈瘤
ドックを受けた人と、治療された方の割合。

興味深いのは、同病院でドックを受けた566人の中には、治療対象になるような動脈瘤の方がいなかったということです。東京のクリニックからの報告では、5mm以上の動脈瘤が見つかるのは1000人に3人程度なので、特に不思議なことではありません。

この566人に他の病気がたまたま見つかった可能性もありますが、一般的に脳ドックは効率が悪いのです。

著者らは「当院での脳ドックは企業健診が多く、したがって男性が多かった=治療が必要な脳動脈瘤を見つける上で効率が良くない」

「(一般人口と比べて、ドック受診者の喫煙率は低く)健康志向が高い人ほど脳ドックなどの脳動脈瘤スクリーニングを受けている可能性がある」としています。

(強制ではない)健診一般の問題として、この「本当に受ける方がよい人が受けていない」「そういう人にリーチできていない」ことが挙げられます。


つまり、脳ドックを受ける方だと、「毎年脳ドックを受けています」「3年毎に健診に脳ドックのオプションをつけています」という方が多く、気になる方はリピートして受けています。(それで予防可能な病変が見つかることは、実際にはあまりありません)

本当は、「10年くらい血圧が高いと言われています」という人とか、20年以上タバコ吸ってる人、歯科検診を受けない、歯槽膿漏を放置していてどんどん歯が抜けていっている人など、医療機関に対して距離をとっている人の方が、「治療するほうが良い病気 (大きめの未破裂脳動脈瘤など)」が見つかる可能性が高いはずです。


そしておそらくこういう方々が受診される方が、実際に脳卒中を起こして生活の質が下がる本人のみならず、社会的なコストを減らす上でも重要なはずです。

(一方で、リスクの低い、例えば3mmくらいの動脈瘤が見つかった場合に、それを保険診療(つまり税金)で経過を見るべきかというのは悩ましい問題。)


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)



最新記事

すべて表示

あの時はCT必要だって言ったじゃん!

転倒して頭をぶつけて脳外科の外来や、救急外来を受診される方はたくさんいます。 皮膚が切れて出血した」ということでの受診、救急搬送であれば、創の深さを評価して、必要なら縫ったり、ステープラーでバチンと止めて傷を寄せ、止血する処置を行います。...

くも膜下出血を起こさない脳動脈瘤

一般的に大きさ5mm というのが(日本人では)治療を考える上で一つの基準になりますが、 サイズが大きめでもくも膜下出血のリスクは高くないという部分もあります。 代表的なものに 『海綿静脈洞部内頸動脈』 にできる動脈瘤があります。...

Comments


bottom of page