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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

合併症(M&M)カンファレンスに参加

先週末、森田師匠が主幹されたMorbidity and Mortality カンファレンスに出席してきた。


「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」で、手術でも患者さん、術者、チームを含めた”運”、つまり単にラッキーで、経過が良いことがある。


その一方で、上手くいかなかった手術は、(後から考えるとではあるが)上手くいかない、それなりの理由がある。


一通り手術ができるようになると、(できれば自分の患者さん以外で)「どのような合併症が起こって、それが何故起こったのか?」を学ぶことは非常に参考になる。

つまり同じ失敗を避けるにはどうすればいいか、という学びになる。

M&Mカンファレンスは、そのような(合併症)症例を持ち寄って、何故起こったか、どうやったら避けられたかを議論するものである。


航空業界では、このような事例研究が以前からあるが、脳外科業界でも同様なこころみがなされている。


(ちなみに、森田師匠と北大の宝金先生が、さまざまな施設に声をかけて、このような合併症例を集めたテキストも非常に参考になる。)



問題は、このような事例研究は「今後の事故を防ぐ目的」で行われるべきものなのだが、それが訴訟に利用されるようなことになると誰も報告できなくなるため、仕組みをどう設計するかが重要だ。

つまり”報告者の秘匿性と非懲罰性が担保され”なければならない

(産科における無痛分娩の問題で診療所が閉院を余儀なくされたのは記憶に新しい。)


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当日のカンファレンスでの具体的な内容に関しては置いておくが、その中で「動脈硬化のある血管を一時遮断して動脈瘤にクリップをかけたら、術後その血管が詰まった」ケースが紹介され、術者であるプレゼンテーターが

「テンポラリークリップは要注意!と諸先輩方が言っていたことが、起こってしまった」

と言ったのに愕然とした。


別にその人をどうこう言いたいわけではない。きっとトレーニングの過程で、先輩医師が

「こういう動脈硬化のある場合は要注意なんだよ」

と、手術中なりカンファレンスでこの術者に説明していたのだと思うが、結局、今回提示されている合併症の予防に繋がらなかったということだ。


自分もレジデントやtraineeに同じような説明をしているし、手術中やカンファレンスで自験例、学会での(合併症に関する)情報などをできるだけしゃべるようにしている。


しかし、自分自身(というより自分の患者さん)が痛い目に遭わないと、この教訓が生かされないとなるとかなり難しい問題だ。


自院の医療安全対策でも、例えば研修医の針刺し事故対策を防ぐには、やはり(残念ながら)同期や同僚が起こした事故を、時機を逃がさず周知して「明日は我が身」とイメージできるようにすることが重要だろうと思ったことがある。


結局、M&Mカンファレンスをどう役立てるかは、他者の失敗をどうやって自分事として捉えるか、ということに尽きるのではないか。


壇上で合併症を報告しているのは、自分とはぜんぜん違う下手な医者でも、運の悪い外科医でもなく、「もしかしたら自分(の患者さん)だったかもしれない」という緊張感が必要だろう。

(だから、ちゃんと聞いていると この手のカンファレンスはすごく疲れる)


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こうやって書きながらも、「さすがにそれは自分の手術ではありえないな…」と思っていた自分もいて、ホントに難しい。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)


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