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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

もっともらしいけど、ホントにそう?という話

更新日:2020年9月22日

各地方毎に脳外科支部会という、珍しい病気・手術の経験を共有しようという目的の会がある。


その会で、同じ医局の医師から発表があり、「くも膜下出血のクリッピング後に短期間に再発した症例」に関するものがあった。


くも膜下出血で開頭クリッピング術を受け、元の生活に戻っても、(まれではあるが)また動脈瘤ができる方は、いる。

それは同じ場所で、クリップした根元からできてくる場合もあるし、別の場所にできることもあるのだが、今回の発表は同じ場所にできたということだった。


動脈瘤の一部が残っている場合はともかく、クリップで完全につぶした後でも、できてくるものはあると思うのだが、


彼らは、「どうして比較的短期間に再発したのか」という点に関して、「動脈瘤の観察が不十分であったかもしれない」ということを挙げていた。


そこに、聴衆から

「半球間裂をもっと広く開けて、closure lineに沿ったクリッピングをすべきだったのではないか?」との意見があり、

演者も「そうですねclosure lineに沿ってやっていれば、再発は無かったかもしれないですね」と。

さらに、発表施設のボス(共同演者)が「初回手術は自分が赴任する前のもので、今は広く開頭して、closure lineに沿ったクリッピングを行っています」


いろいろ呆れていたら質問する機会を失ってしまったが、世の中には「もっともらしいけど、それ本当?」ことが色々あるなあ。


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Closure lineというのは、秋田脳研の石川達哉先生と北大の中山直樹先生が論文に書かれていて、

Neurol Med Chir (Tokyo), 49 (6), 273-7; discussion 277-8 Jun 2009 Concept of Ideal Closure Line for Clipping of Middle Cerebral Artery Aneurysms--Technical Note



「動脈瘤は血管を元の形に戻すように、クリップをかけるべきだ」

というもので、確かにそのようにクリップをかけられる場合には、「きれいにかかった!」感がある。

また、「自然なかたち」のように思えるし、多分、多くの脳外科医が「そういう風にクリップをかけている」し「かけてきた」と思う。


(ビジネス本などでも「みんなやっていることに、名前をつけたら爆発的に売れる、広まる」というようなケースが時々見られるが、これもそういう類のものなのだと思う。)


古くは伊藤善太郎先生(故人)も同じように考えていたと聞いているし、前職NTT東日本関東病院の故永田和哉先生も同じような事を書かれている。


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はたして「自然な形に戻す」=「再発が少ない」のだろうか?


結論から言うと、そういう証拠は、ない。

(おそらく今後も分からない)


確かに、動脈瘤になっている異常な壁を残さない、という意味において根元まできちんと処理することは重要だし、クリッピング術の最大のメリットも「正常な壁を形成する」というところにあると理解している。


しかし、それは必ずしも元の血管の形に戻すことを意味しない。


動脈瘤のできる原因の一つに、「流体力学的な作用によって、動脈の壁に変化が生じる」というものがあるが、元の状態に戻したら、同じように血流が作用する(=動脈瘤を作る)ことになるのではなかろうか

そう考えると、元の血管とは違う形状に形づくる方が、再発が少ないんじゃないだろうか?


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ちょっと面白いな、と思うのは、前述の石川達哉先生が「再発動脈瘤の治療」に関しても造詣が深いことだ。


秋田脳研といえば、伊藤善太郎先生や波出石先生など、血管障害のエキスパートがトップを歴任してきた病院なのだが、おそらく多くの動脈瘤がclosure lineに沿って治療されていると考えるのが自然だと思う。


そこの病院で、再発動脈瘤の経験が豊富にある、というのはどういうことだろう?!


これに関して、実際に石川先生に質問したことがあって、その答えは

「再発例はclosure lineのコンセプト以前に治療した患者さんです」

ということだった。


(動脈瘤の異常な壁が残らなければ)クリップのかけ方で有意な差が生じるほどは再発しない、というのが本当のところではないだろうか。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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