「その他の内頸動脈瘤」の出血リスク
- 木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター
- 9月29日
- 読了時間: 4分
以前のブログで「その他の内頸動脈瘤」という分類はどうなの?という記事を書きました。(記事はこちら)
内容としては
脳ドックや頭痛・めまいの検査でMRIを撮ったとき、偶然「内頸動脈瘤」が見つかることがあります。
未破裂内頸動脈瘤のうち、後交通動脈分岐部にできるタイプは、実際のくも膜下出血の患者さんでもよく見つかる場所であり、リスクが高めです。
それ以外の内頸動脈にできた脳動脈瘤は「その他の内頸動脈瘤」とまとめられるのですが、実際にはできる場所や向きによって危険度は大きく違うのです。
今回は、その理解を深める論文を紹介します。
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「CISS画像による傍前床突起部未破裂脳動脈瘤の評価と平均5年間の経過観察からみた治療方針」(深谷春介、河本俊介ほか)[1]
第一著者の深谷先生とは一緒に働いたことがあり、共著の河本先生は未破裂動脈瘤の手術を数多く経験している先生です。
獨協医大での後ろ向きの解析ですが、いわゆる「その他の内頸動脈瘤」の中でも、傍前床突起部の動脈瘤に注目しています。
(前回ブログで、ほとんど出血しない、と書いた部分です。)
その中でも
内向きや下向きにふくらむタイプ
表面の半分以上が硬膜で覆われているタイプ
を原則「治療せずに経過観察」したのが特徴です。
硬膜で覆われているかどうかは、CISS画像という髄液がよく見える特殊なMRIを使って判断しています。
(ちなみに僕も同じようなMRI画像(FIESTA)を術前に撮影しています。[2] CISSとCTAがあれば、(巨大な動脈瘤を除けば)クリッピング術の術前検査としては十分だと思っていて、多少なりともリスクのある脳血管撮影検査(カテーテル検査)は不要だ考えています。)
今回の内頸動脈瘤の内訳としては
対象:119人125動脈瘤
年齢27–82歳(平均59.7歳)
観察期間:平均5.2年
動脈瘤サイズ:2~9mm(平均4.6mm)
(たまたまですが、上向き動脈瘤は含まれていません)
結果は驚くほどシンプルで、5年間で出血・増大・形の変化はゼロ件。
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患者さんの数はそこまで多くありませんが、平均5年も追跡して全く変化がなかったというのは、私自身の臨床経験にも合います。
(上向き以外の)傍前床突起部動脈瘤は、ほとんど変化せず、出血リスクもきわめて低い
つまり「数年に1回の経過観察」で十分と考えられる
ただし注意が必要なのは、上向きの傍前床突起部動脈瘤。これは実際にくも膜下出血を起こすことがあり、まれに脳内出血で発症するケースもあるので、治療を検討した方がよいタイプだと思っています。
今回の論文は、「その他の内頸動脈瘤」の中でも、傍前床突起部の動脈瘤は治療の必要が低い傍証になると思います。
もちろん、ゼロとは言い切れないのですが、この部分に未破裂動脈瘤が見つかったら、生活習慣を改善して経過観察というのが妥当なのではないでしょうか。
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こういう記事を書いていると、
「お前が下手で、治療できないからそういうことを書くんだろ?」
という批判もあると思うのですが、前床突起切除は論文も2本書いている程度には慣れています。[3],[4]
むしろ、大半の傍前床突起部の動脈瘤は普通に安全にクリッピングできるのに、抗血栓薬に避けられない重大出血リスクを冒してフローダイバータで治療する意味ある?という立場です。
前回も書きましたが、
(別に出血する可能性がゼロではないし、安全なんだから目くじら立てる必要あるの?という向きもあるかもしれませんが、「脳外科医って忙しそうにしているけど、やらなくても治療に忙しいだけでしょ?」とか「意味ないことに医療費費やしている連中でしょ」と思われて、一緒にされたくないということです。)
[1] 深谷 春介, 河本 俊介, 菊地 慈, 角 拓真, 河野 立弥, 奥貫 かなえ, 金 彪, CISS画像による傍前床突起部未破裂脳動脈瘤の評価と平均5年間の経過観察からみた治療方針, 脳卒中の外科, 2021, 49 巻, 5 号, p. 367-372, 公開日 2021/11/19, Online ISSN 1880-4683, Print ISSN 0914-5508, https://doi.org/10.2335/scs.49.367
[2]Kimura, T., Morita, A., Shirouzu, I., & Sora, S. (2011). Preoperative evaluation of unruptured cerebral aneurysms by fast imaging employing steady-state acquisition image. Neurosurgery, 69(2), 412–420. https://doi.org/10.1227/NEU.0b013e318213431e
[3]Kimura, T., & Morita, A. (2019). Early Visualization of Optic Canal for Safe Anterior Clinoidectomy: Operative Technique and Supporting Computed Tomography Findings. World neurosurgery, 126, e447–e452. https://doi.org/10.1016/j.wneu.2019.02.071
[4]Kimura, T., Takeda, Y., & Ichi, S. (2023). Modified extradural selective anterior clinoidectomy leaving the optic canal unopened for internal carotid aneurysms: A technical note. World neurosurgery: X, 18, 100154. https://doi.org/10.1016/j.wnsx.2023.100154
最近の「傍前床突起部の上向き動脈瘤」の治療例。
(画像・ビデオの使用については、患者さんご本人に許諾を得ています)


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