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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

意識とは何か?

更新日:2023年8月9日





脳卒中や、外傷、感染症などで、それまで元気だった人が、昏睡状態を経て、一般的に植物状態と呼ばれるような状態に陥ってしまうことがある。


それは三次救急病院では、割と日常茶飯事である。


急性期病院でも、特に重症頭部外傷や、重症のくも膜下出血では、当初、全然反応が無い状態からでも、数週間の単位で意識が改善してくるのを経験することがある。

しかし、ある程度時間が経つと、植物状態から復帰するというのは難しいと考えるのが一般的である。


しかし、著者らは、そのような「植物状態」と診断されている患者さん達を、機能的MRI (fMRI)を用いて調べると、その中に最大20%くらいの割合で、実は意識があって、コミュニケーションを取れる人がいるということを示した。


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fMRIというのは、MRIの撮影方法の一つで、画を見せたり音を聞かせると、その時に使っている脳の部分で酸素の消費量が増えるが、その変化を見えるようにする撮像方法だ。


植物状態と考えられている患者さんをfMRIの装置に入れ、「テニスをするところを考えてください」と指示を出すと、運動前野と呼ばれる、運動に関わる脳の部位が興奮することがある。

つまり、そのような反応が見られる患者では、指示が理解できていて、「テニス」というスポーツの動きを記憶から呼び出し、その動きを頭の中で再現する、という機能が保たれているということだ。


同様に「家の中を歩き回ってください」という質問に対しては、海馬傍回という部位が活性化された。


この2カ所は脳の中でもかなり離れた場所に位置しているが、「これから訊く質問にYesなら『テニスをしているところ』を思い浮かべてください。Noなら『家の中を歩き回っているところ』を思い浮かべてください」

と訊ねることで、Yes/Noでコミュニケーションが取れた。


つまり、質問された「内容を理解し」判断できたということである。


しかも、それが植物状態と診断されて、何年も経った患者さんでも、そういうことがあったということ。


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本の中では、蘇生後の虚血後脳症の患者で、劇的な改善が見られた人の話も出てくるのだが、そのような虚血後脳症や感染症・外傷の話が多い。


外傷やくも膜下出血の急性期で、脳の腫れなどが落ち着いたところで、「”目つき”は意識がありそうなんだけどなぁ」という状態なのに、ほとんど反応が無いということは、実際よくある。


そして、半年ぐらいすると、歩いて外来を受診、という方も無視できない頻度で経験するので、急性期病院で診ているだけでは分からないことが、特に外傷では起こる。

(脳卒中では、あまりない)


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話はずれるが、サンバイオ社のSB623という薬の治験で、頭部外傷後の意識障害では改善が見られたが、脳梗塞では証明できなかった、という発表があったが、それもこの辺りに理由があるのではないかと思っている。

(もちろん、適切なコントロールを設定しているとはいえ、患者さんの数が少なければ「有効」という結果が出ることはある)


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そのような患者さんの中には、さらに時間が経過してから、ADL、つまりできることが増えてきた人もいたようだが、「MRIの結構時間がかかる特殊な検査で分かる反応」止まりの人が、おそらく大半なのだと思われる。


本邦の急性期病院でも、他者に分かるような反応が無ければ、積極的なリハビリの対象にはなりにくいと判断されるが、その中にも、もしかしたら、上記のようなyes/noの質問には答えられている人がいるのかもしれない。


残念ながら、研究目的以外でこのような検査を行うのは難しいし、現実問題として一般病院ではできない。


人的にも経済的にも、全体としての資源が限られている現状では、「もしかしたら…」と思いながらも、心苦しい判断を続けるしかないのではないだろうか。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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