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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

脳梗塞急性期の薬の開発

更新日:2020年1月13日

急性期脳梗塞の治療薬で、動物実験では有効とされた薬が、臨床試験ではことごとくプラセボと変わらない(~無効) 理由についての論文 (Annals of Neurology, open access)。



下畑 享良先生がブログで説明されているので知った。

論文の内容については同ブログに書かれているとおりなので、それを踏まえて、勝手に思っている内容を書いてみたい。


なぜ、急性期脳梗塞の治療薬で、動物実験では有効とされた薬が、臨床試験ではことごとくプラセボと変わらないのか?


それは、実験動物とヒトの脳のサイズが、あまりにも違うからです。

(少なくとも大きな要因になっているはず)


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まず、実験動物である薬剤Aが有効かどうか、どうやって判定しているかについてあらすじを述べます。

ヒトにおいて、脳梗塞は、心筋梗塞同様に動脈硬化のなれの果てに起こるものです。つまり、生まれてから脳梗塞を起こすまでにかなりの時間がかかる


実験動物でも、高血圧や、高コレステロール血症になるネズミがいます。

しかし、それらが自然に脳梗塞を起こすまで待つのは時間がかかるし、脳梗塞の部位や大きさをコントロールすることができなくなります。


そのため、実験動物を使った脳梗塞の研究は、ネズミの片側頚動脈や、片側中大脳動脈を糸やクリップで詰まらせて脳梗塞を起こすことになります。

頚動脈や中大脳動脈のような、大きな血管が養っている脳の組織は、ネズミではだいたい一定しているため、同じような脳梗塞を起こすことができます


(ちなみに脳外科でも、大学院などで脳梗塞の研究をされるDr.は、手先の器用さ、もしくは手術経験を生かして、この血管を露出して詰まらせるという部分を担当することが多かったようです。今は知りません。)


このような実験動物に対して、ある薬物Aを投与したネズミたちでは、そうでないネズミたちと比べて、平均すると脳梗塞のサイズが(統計的に有意に)小さい、という薬が見つかることがあります。


(学位目的の大学院生の仕事としては、話を大幅に端折ると、ここで論文が書けて、学位審査に通れば、とりあえず所期の目的は果たしたことにになります。)


しかし、ネズミで脳梗塞の大きさを抑制できるといっても、そのまま人間に使う訳にはいかないため、臨床試験というのが必要になるわけです。


(ネズミの後、いきなりヒト、ということはないので、サルなどで評価することになります。)


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ここで、各動物の脳のサイズを見てみましょう。


脳神経外科
動物の脳のサイズ

左上がヒトの脳で、右下がマウスの脳、その隣には少し大きいラットの脳が並んでいます。


これは、実際に脳梗塞や脳挫傷の患者さん、手術の経験から言えることですが、マウスの脳全体に相当する大きさの脳梗塞が、人の脳で起こっても、特に大脳では、ほとんどの場合症状を出しません


錐体路と呼ばれる、手足を動かす命令の通り道などを”直撃”するような脳梗塞であれば、一時的には麻痺を起こすことはあるかもしれません。また脳幹や基底核といった、機能がはっきりした神経細胞が密集しているところでは、やはり症状が出るかもしません。


ヒトにも中大脳動脈があり、手で覆えるくらいの範囲に血液を送っています。

しかし、小指の先ほどもないマウスの脳みそに血液を送る数百マイクロメートルの中大脳動脈と、人間の脳の隅々にまで血液を送るヒトの2mmの中大脳動脈を同列に扱うことはできないでしょう。


実際、脳のバイパス手術で、血管を繋ぐ先(レシピエント)の動脈から細い枝が生えていることがあり、(最近はほとんど行うことはないですが) 邪魔な時は切断することがあります。

この切断する動脈が、ちょうどネズミの中大脳動脈程度の太さです。


もちろん、手術で、この枝を切っても、患者さんに症状が出ることはないし、術後にMRIを撮影しても、脳梗塞を見つけられないことがほとんどです。


赤血球のサイズは、ヒトでもネズミでも変わりはないので、同じ径の動脈は、同じくらいの体積の脳組織を養っていると考えられます。


ということを考えると、ネズミの中大脳動脈閉塞モデルは、ヒトの中大脳動脈閉塞のモデルではなく、同じ程度の直径の動脈を閉塞させた場合に起こる脳梗塞のモデルということなのでしょう。

なので、ネズミで統計学的に有意な脳梗塞の体積減少が見られたとしても、ヒトの脳の巨大なサイズの前では、本当に小さな部分なのです


*失われる機能としては、相応する関係があり、幹細胞移植やリハビリテーションの効果にてついての議論は別になります。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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