心原性脳塞栓症は、心房細動という不整脈が原因になります。
動脈硬化が原因になって起こる脳梗塞と比べて、重症化しやすく、亡くなった小渕恵三首相も、このタイプだったと言われています。
動脈硬化による脳梗塞の場合は、何年もかけて少しずつ動脈が詰まっていくため、その動脈以外のところから自然にバイパス血管(毛細血管など)が発達していることが多く、実際に詰まっても、脳梗塞に陥る体積は少なくて済むことがしばしばあります。
一方、心房細動が原因で起こる脳梗塞は、心房細動が起こることで心臓(左房)の動きが悪くなり、そこで血栓ができ、それが運悪く脳に流れていって起こります。
脳側から見ると、準備できていないところに急に血栓が流れてきて、動脈が流れなくなるため、動脈硬化のときのように、周りのバイパス経路からの血液がありません。
なので、内頚動脈などの太い血管が詰まった場合、麻痺や無視、共同偏視などの強い症状が現れ、そのままだと広範囲に脳梗塞が完成します。
運が良ければ、血栓を溶かす薬を投与することで、脳梗塞ができあがる前に血栓が溶かしたり、あるいはカテーテル治療で血栓を取りのぞく治療を行ったりして、血流を再開させることができることもあります。
(自分自身はいろいろな理由で、血栓回収療法はやっていませんが)
しかし、実際には「朝起きたら脳梗塞になっていた」とか「カテーテル治療(や血栓を溶かす治療)ができる時間を過ぎていた」ということがよくあります。
結果として、重度の脳梗塞が完成し、後遺症が残ることになります。
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このタイプの脳梗塞は、毎年MRIを撮影していても防げるものではなく、例えば健診の心電図や、動悸があるので詳しく調べて見つかることがあります。
約40%の方では、心房細動があっても症状は無いようですが、症状が無くても脳梗塞の原因にはなりえます。
そのため、心房細動が見つかった場合には、脳梗塞の危険性によって、血栓ができないようにする抗凝固療法という治療を行うことを検討します。
つまり、脳梗塞を起こしたことがある人や、心臓の動きが悪い人、高齢者は脳梗塞を起こす危険性が高いのですが、その危険性を評価するための基準がいくつかあります。
CHA2DS2-VAScスコアはその一つですが、下のようになっています。
Lip GY, Frison L, Halperin JL, Lane DA.
Identifying patients at high risk for stroke despite anticoagulation: a comparison of contemporary stroke risk stratification schemes in an anticoagulated atrial fibrillation cohort. Stroke. 2010 Dec;41(12):2731-8. doi: 10.1161/STROKEAHA.110.590257.
脳梗塞を起こしたことがあると、それだけで2点加算になります。
軽症脳梗塞を起こしたあと、抗凝固薬を処方されていたけれど、自分の判断で中止していたら重症脳梗塞になったという方はしばしばいます。
実際、抗凝固薬のワーファリンは血液検査を行って量を調整する必要があり、その他の抗凝固療薬も薬の値段が高めであるため、「止めてもいいのでは…」と思いがちなようです。
しかし、年間2%というのは、(もちろん医療の提供者側からの視点なのでバイアスがあるものの)比較的高い頻度です。
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この心房細動、加齢とともに起こりやすくなるため、高齢人口が増えることを考えると、今後もしばらく増え続けることは間違いないでしょう。
80歳の男性だと10人に一人に心房細動があると言われていますが、この全ての方に抗凝固薬を処方するというのも現実的ではありません。
体力が衰えて転びやすくなっているような方は、抗凝固療法を行うことで出血するリスクも上がるため、ひとりひとりの状態によって、どういう治療を行うかを判断する必要があります。
(どの薬もそうですが、医者はそういう全身の状態、一人一人の背景を考慮して処方すべき)
実際に飲んでいる薬を止めるときは、担当の医師に相談しましょう。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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