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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

パーキンソン病患者さんの脳にiPS細胞移植

更新日:2020年6月19日


脳外科的な話題ではあるが、自分の普段の臨床とは毛色の違う論文(症例報告)


N Eng J Med. 2020 May 14;382(20):1926-1932. doi: 10.1056/NEJMoa1915872.

List of authors.

Jeffrey S. Schweitzer, M.D., Ph.D., Bin Song, M.D., Ph.D., ...Kwang-Soo Kim


パーキンソン病は、手足の震えや姿勢障害が起こる病気で、高齢者に多いが、M.J.Fox氏のような若い方でも起こり、進行性に症状が悪くなっていく神経疾患だ。

基本的には、内服薬による治療を行うが、病気が進行するに従って薬の量も増やすことになり、副作用も問題になる。

また薬を飲んでいても, off時間と呼ばれる、動けなくなる時間が現れたりして、患者さんの生活の質(QOL)も、やはり病気の進行とともに悪くなる。


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ある程度、病気が進んだ患者さんには脳外科の手術を行うこともある。


現在、主な手術は、頭蓋骨に開けた小さな穴から、細い電極を刺して脳中枢部分を刺激することで、足りなくなっている物質(ドーパミン)を出させるようにするものだ。

もちろん、刺激する場所が非常に重要なため、この電極を刺すのも非常に神経を使う手術だが、自分の長所(器用さ)を活かせる分野ではないし、そういう手術が得意な病院で働いたこともないので、自分でこの手術を行ったことはない。


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あえてこの論文を取り上げたのは、(どうでもいいことではあるが)自分が脳外科という職業に興味を持ったときのことを思い出したから。

実はこれと同じような手術が、20年以上前に”胎児脳”を使って行われたという研究があり、その論文を読んだときだった。


移植後、振戦・姿勢障害が改善した、という内容だったと思うが、それこそ「すごいことをしているんだな!」と驚いたことは覚えている。


その後の研究で、この効果は長続きせず、中絶で得られた胎児の組織を使うことから、倫理的な側面からも廃れたのだと思う。


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今回の報告は胎児脳の代わりに、いわゆる自分の細胞から(山中教授で有名な)iPS細胞を作り、それを分化させてドーパミンを分泌する細胞 (midbrain dopaminergic progenitor cell, mDAPs)を作成して、脳の深部(被殻)に移植したという症例報告。


少なくとも、この患者さんでは、移植した細胞は生きていてドーパミンを作っているようであることが確認され、パーキンソン病の症状も(評価基準上)改善がみられ、内服薬の量もlevodopa換算で6%減らすことができた。


実際に患者さんに移植して術後24ヶ月後の評価を行うまでの、ネズミでの安全性確認、実際のドーパミンが作られるかの確認、ネズミ、ヒトでの研究のための倫理委員会を通すための準備などの作業を想像すると、やっぱり「この治療で患者さんをよくしたい!」という強いpassion(情熱)がないと、続けら

れないだろうなと感じた。


それとともに、こういうpassionを患者さんも感じ取ってしまうので、症状改善という望ましい結果も、これだけでは、有効とはいいきれず、著者も”解釈に注意が必要”と述べている。


時間と手間(とお金)がかかる治療で、levodopa換算で6%の減量という成績だと、電極(DBS)の方が良さそうに思えるが、今後の展開を見守りたい。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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