われわれの調査では、電子カルテに2000年から2009年に「未破裂脳動脈瘤」に関連する病名で登録されていた患者さんのうち、実際に動脈瘤があって、形状・大きさが確認できた人、722人を抽出。2014年末時点に、動脈瘤の状態がどうなっていたかを調査しました。(カルテ、電話、手紙による調査)。
その結果、19人の方が、CTなどでくも膜下出血と診断されており、そのうち7人が亡くなっていました。人年法という従来の報告と同じように、年間の出血率を計算すると、1年間の出血率は0.57%という結果でした。
これはUCAS Japanの0.95%と比べてかなり小さい値です。
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ところで、国立病院機構が行った、「5mm未満の動脈瘤を手術せずに経過をみた研究(SUAVe研究)」があります(Sonobe ,2012)。
日本では従来、「5mm以上の未破裂動脈瘤は治療を検討する」とされていました。
そこで、「治療を検討する必要が必ずしも、無かった」5mm未満の動脈瘤については、“全例を”手術せずに経過を見ることが可能だったわけです。
この結果は、374人の動脈瘤を持つ患者さんが登録され、そのうち7人が観察期間(平均41ヶ月)中にくも膜下出血を起こしました。やはり人年法で出血率を計算すると、ひとりの人が1つだけ動脈瘤を持っている場合、年間出血率0.34%でした。
つまり、このグループでは「一人のくも膜下出血を防ぐために年間300人の患者さんを治療する必要がある 」ということです。
(この研究でも、観察中に増大した動脈瘤などは治療されていますが、後で述べるようなバイアスが最も少ない研究だと思います。)
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我々の結果(出血率=年間0.57%)というは、UCAS Japan研究の結果よりも、このSUAVe研究の結果に近いものでした。
では、年間の出血率が6.9%という研究報告もあるのに、同じ人種で10倍以上出血率が異なるのはなぜでしょう?
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UCAS Japan研究が始まった頃、「自然歴を調べるといっても、リスクが無視できない動脈瘤は治療されるのにどう解析するの?」「そんなことできるの?」という議論があったように思います。
しかし、6000人近い患者さんのデータを元に、超一流誌New England Journal of Medicineに掲載され、結果も0.95%と、巷間言われていた値(1%)に非常に近いものだったこともあり、この結果は、出血率の表とともに広く利用されています。
では、研究開始当初の外部からの疑問、「リスクが無視できない動脈瘤は治療されるのにどう解析するの?」は解決されたのでしょうか?
答え:解決されてませんでした。
Reference:
1. Sonobe M, Yamazaki T, Yonekura M, Kikuchi H. Small unruptured intracranial aneurysm verification study: SUAVe study, Japan. Stroke. 2010;41(9):1969-77. doi: 10.161/STROKEAHA.110.585059. Epub 2010 Jul 29.
*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら
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