脳外科医はどのような動脈瘤を治療するでしょうか?
とりあえず、外来に来た患者さんを老若男女問わず、片っ端から治療する?
それとも、サイコロ振って奇数が出たら、というふうにランダムに治療するでしょうか?
常識的にはそういうことにはなりません。
大きさが大きい、形がいびつ、家族にくも膜下出血の方がいる、あるいはご自身がくも膜下出血を患ったことがある方の別の動脈瘤など、過去の報告などで出血のリスクが高いとされるものについて、治療を考えます。
(一般的に治療を勧める動脈瘤についてはこちら)
また一方で、治療リスクが高い動脈瘤については、出血のリスクが高くても、治療のせいで麻痺などの後遺症が起こるのは避けたいので、及び腰になるでしょう。
また、あくまで予防的な治療であることを考えると、高齢の方については、あえて治療しないという選択をすることも多い。
つまり、生存曲線の前提となっている、「打ち切り」がランダムに起こるという条件を満たさないことになります。
加えて、(治療困難な動脈瘤をのぞく)「出血しやすそうな」動脈瘤が優先的に治療されることになりますが、”イベントを起こしやすい個体が優先的に「打ち切り」になると、イベントの発生を小さく見積もってしまう”と教科書に書かれています。
つまりJuvelaらの一連の論文とSUAVe研究以外、全ての動脈瘤論文でこの治療というバイアス、というか統計的な問題があるわけです。
*******************
そういう観点で、例えばUCAS Japanの結果を眺めてみると、登録3ヶ月の間に1/3の動脈瘤が治療を受けており、さらに治療されたり観察不能になって、1年目の解析になっているのは元の動脈瘤の半分です。
また、場所・大きさを出血リスクをまとめた表で、どうして中大脳動脈瘤がAcom/Pcomと比べて著しくリスクが低いのか?
(中大脳動脈瘤はくも膜下出血の原因動脈瘤のおよそ1/5で、Acom/Pcomに次ぐ頻度であるにも関わらず。(脳卒中データバンク2015))
元データに当たっていないため、あくまで仮説ですが、UCASの調査が始まった2000年はじめ、血管内治療は日本ではあまり行われておらず、治療といえば開頭クリッピング術が主体だったと思います。
その中で、中大脳動脈瘤については、治療リスクが大体において許容範囲なことが多く、多少大きくても、高齢でも治療されていた可能性が高い。
あるいは、HishikawaらがUCAS Japanデータをまとめて報告した「高齢者の出血率は若年者より高く、80歳以上がそれ以下より高い」(Hishikawa, Neurology 2015)というのはどうでしょう?
80歳以上の高齢の方でも、未破裂脳動脈瘤の治療を行うことはありますが、一般論としては開頭術の合併症が多くなることもあり、手術があくまで予防目的であることを考えると、無理せずに経過観察になることが多い。
だから出血率が高くなった可能性が、ある。
*******************
結論 1.
もともと出血リスクが小さいと考えられ、あまり治療されていなかったと考えられる5mm未満の動脈瘤と、治療リスクが大きくて、合併症リスクが無視できない動脈瘤以外の、「それなりのリスクがあって、治療リスクが許容範囲の動脈瘤」は早期に治療される。
そのため、このグループの出血率は、もっと高い可能性があると考えられます。
Reference
1. 久保 慶高 小邦: くも膜下出血をきたした破裂脳動脈瘤の疫学-大きさ,部位,年齢,性差,年齢別性差,および内科的合併症の頻度に関する解析, in 小林祥泰 (ed): 脳卒中データバンク2015. Tokyo: 中山書店, 2015, Vol 1, pp 154-155
2. Hishikawa T, Date I, Tokunaga K, Tominari S, Nozaki K, Shiokawa Y, et al: Risk of rupture of unruptured cerebral aneurysms in elderly patients. Neurology 85:1879-1885, 2015
*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら
Comments