脳にとって睡眠は非常に大事であることは、まず間違いありません。
しかし職業柄、緊急手術などで睡眠時間が削られることは避けられないため、こういう記事が掲載されると不安になります。
日経新聞
自分が不安になった理由を冷静に考えてみると、この題名を見て「睡眠不足だと3割の人が認知症になる!」と読んでしまっているのです。
しかも(なぜか)近い将来に!!と思い込んでしまいます。
ある程度統計の勉強していてもこうなので、一般の日経新聞読者の方もビックリして
「今日から早く寝よう!!」はともかく、「睡眠薬飲まないといけないのでは?」と思ったのではないでしょうか。
こういうバズりそうな題名を付けるのは時代的に仕方ないのかもしれませんが、とりあえず落ち着くことが大事です。
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この記事の元になった論文はオープンアクセスなので、インターネットで無料で読むことができます。
Nature Communications
Séverine Sabia, Aurore Fayosse , Julien Dumurgier et al.
この研究はWhitehall IIという観察研究で30年(!)の長期にわたって、睡眠時間と認知症の関係を調べています。
余談ですが、このような長期に、多くの人をずっと追いかける研究はとても大変で、費用もかかります。
引っ越したり電話番号が変わったりするだけでどんどん情報が失われていくのです。
長い期間経過を見ていると、年齢を重ねるに従って睡眠時間が短くなる方も多いですが、こういう変化する因子を調べる方法も参考になります。
この研究で登録された7959人、およそ8千人の人のうち、3割の人が認知症になっていたら大変ですが、実際に認知症になったのは521人の方です。
30年の研究で7959人中521人(6.5%)。
そして、この521人がみんな、睡眠時間6時間未満だった。。。ということでもありません。
論文の表を見ると、50代の睡眠時間が
6時間未満 3149人中 211人
7時間だと 3624人中 219人が認知症になっていました。
ちなみに
8時間以上 1186人中 91人が認知症に。
言い換えると
100人の人を10年経過を見ると、
6時間未満の人では2.8人に認知症、7時間の人では2.4人に認知症が起こった
とされています。
10年間で100人中2.4人と2.8人の違いがあったということです。
7時間睡眠の人と比べると、6時間未満の人のハザード比は1.28(95%信頼区間1.06−1.55)=およそ1.3倍=リスク3割増し、ということでしょう。
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繰り返しますが、脳にとって「適度な」睡眠は認知症や脳卒中の予防にも重要です。
ですが、その一方で「適切に」心配するのがとても大事ということが分かる記事でした。
一般論として、たくさんの人を長期間観察できれば、何らかの(統計学的には意味のある)差が出ます。
ちなみにオリーブオイルやナッツを食べる人の方が長生き、というのも同じような(大人数・長期間観察の)解析結果をもとに言っている話です。
つまり、好きでもないのに食べる必要はないし、眠たくないときに無理矢理寝る必要もないのです。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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