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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

ヨーロッパでは何mmの動脈瘤が治療されているか?

更新日:2021年5月1日

未破裂脳動脈瘤の患者さんが受診されたとき、脳動脈瘤の大きさはもっとも重要な情報だ。


そして、手術すべきかどうかの根拠として、脳ドックガイドラインや脳卒中ガイドラインを参考にすることが多い。


ガイドラインと言っても、医師の裁量を縛るものではないが、開頭手術にせよカテーテル治療にせよ、危険性を伴う治療であるため、治療の根拠は重要だ。


日本の上記ガイドラインでは「動脈瘤の大きさが5mm~7mmのものについては、治療を含めた慎重な検討を要する」となっているが、5mm未満でも個別によく検討するように、という内容になっている。

つまり、大きさ5mmというのがそれなりの影響力を持っているのである。


そこで今回、ヨーロッパ脳神経外科学会誌に、「実際にヨーロッパの脳外科が、未破裂脳動脈瘤をどのように治療/経過観察しているか」というアンケートに基づく研究結果が掲載された。


Skodvin TØ, Kloster R, Sorteberg W, Isaksen JG.

Acta Neurochir (Wien). 2020;10.1007/s00701-020-04539-8. doi:10.1007/s00701-020-04539-8


欧米人は、日本人よりくも膜下出血の頻度・未破裂脳動脈瘤からの出血の危険性が低いとされている(フィンランド人を除く)。

そして、比較的規模の大きい研究から”7mm”以上はリスクが高いので、治療を検討するというのが建前だ。


では調査の結果がどうだったかというと、治療を検討する大きさは6mmということだった。

もちろん、大きさが変化しているとか、形がいびつであるなども考慮されているが、興味深いのはやはり「7mmというコンセンサスで、実際の治療基準が6mm」というところ。


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UCAS Japanで、実際に治療されている動脈瘤を見ると、4mmの動脈瘤も40%くらい治療されており、似たような傾向があるということだ。


未破裂脳動脈瘤
5mmと4mmは同じ程度治療されていた。


5mmの未破裂動脈瘤が1年間にくも膜下出血を起こす危険性は(個人的にはもう少し高いと思っているが)約1%とされている。

つまり100人同じような動脈瘤を持っている方のうち1人だけがくも膜下出血を起こすということ。

つまり残りの99人には何も起こらないということだ。


しかし、1年経てば、この未破裂脳動脈瘤が無くなって、心配しなくて良くなるかというと、そういうことではなく、その後もずっと頭のなかに残っているわけである。


なので、1年間に1%の危険性であれば、10年間だと10%くらい*になり、その間にくも膜下出血を起こすと大変なので、余命との兼ね合いで治療を考えましょうということで、5mmが基準となっている(はず)。

(* 1-0.99^10)x100=9.56(%))


ところが、5mmという基準が示されていることで、「なんとなく5mmになると出血する」ような雰囲気が醸し出され、「5mmになる前に治療しましょう」という話になるのだろう。


ヨーロッパの基準=7mm、実際の適応6mmも同じような感覚だと思われる。


このようなバイアスというか思い違いがあるため、脳外科学会の重鎮の中にも「日本の基準も7mmにする方がよいのでは」という意見もあるらしい。


少なくとも6mmにすれば、実際の治療適応が5mmに落ち着くというのは単純すぎるだろうか?


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)


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ちなみに


日本人でも5mm未満の未破裂脳動脈瘤がくも膜下出血を起こす危険性は0.5%程度とされている。

1件のくも膜下出血を防ぐために200人治療しなければならない計算になるが、目の前にいる患者さんが、例えば3mmの未破裂脳動脈瘤を持っているとして、その人がくも膜下出血を起こすかどうかなんて誰にも分からないのです。

むしろ出血しない可能性の方がずっと高い。

そこで「片っ端から治療する」という戦略(?)も成り立つのだが、大半の方は切られ損、詰められ損になることになる。

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