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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

「その他の内頸動脈瘤」という分類は妥当か?

更新日:1月31日

脳動脈瘤は脳に栄養を送る動脈のさまざまな部分にできる。

脳の動脈は頚動脈(内頚動脈)から、アタマの中で枝分れを繰り返し、だんだん細くなっていく。動脈瘤はこの枝分れしている部分にできることが多い。


そして動脈瘤が出血しやすいかどうか、という観点からは、動脈瘤ができている場所によって差があることがよく知られている。


今回は、その中でも内頚動脈瘤の話。


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内頚動脈瘤の中でも、後交通動脈という、後ろの動脈(後大脳動脈)と繋がっている(交通している)動脈との分かれ目にできる動脈瘤(IC-Pcom、ICPCと呼ばれる)は、比較的よく見つかる動脈瘤だが、脳卒中ガイドラインなどでも出血の危険性がやや高い場所としてあげられている。


実際、くも膜下出血を起こした患者さんの、およそ1/4くらい(4人に1人)は、このIC-Pcom動脈瘤なので、5mmを超えているとか、形がいびつな場合には治療をお勧めする場合が多い。


未破裂動脈瘤, コイル塞栓術, 開頭クリッピング術, 前床突起
動脈瘤は内頚動脈のいろいろな部分にできる。

一方、脳動脈瘤の研究などで、「その他の内頚動脈瘤」と一括り(ひとくくり)にされている動脈瘤がある。

例えば、日本人の未破裂動脈瘤を考える上では最も重要な研究である、UCAS Japanでは、登録された6697個の動脈瘤のうち、1245個(18.6%)は、この「その他の内頚動脈瘤 」だ。

後交通動脈より細い動脈が枝分れする部分にできる動脈瘤だが、この「その他の内頚動脈瘤」に概ね4カ所が含まれる。


しかし、2015年の脳卒中データベースを見ると、くも膜下出血を起こした患者さんのうち、この部分にできた動脈瘤が原因になったものは1%となっている


つまり、IC-Pcomと比べると、とても少ない


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しかし、実際にこの「その他の内頚動脈瘤」がくも膜下出血を起こして搬送されてくることはある

特に前脈絡叢動脈との分岐部にできた動脈瘤は、わりと小さい動脈瘤が出血していることが多い。

しかも残さなければいけない前脈絡叢動脈自体が細く、この細い動脈が流れなくなると、後遺症として半身麻痺(特に手・腕の麻痺)が完成してしまう。

そのため、普通に遭遇する脳動脈瘤の中では、(後遺症に直結するという点で)未破裂動脈瘤でも難しいものの一つである。

(カテーテルでもギリギリまで詰めるのは難しい)


一方、脳ドックや、頭痛のめまいの検査のためMRIを撮って見つかる未破裂動脈瘤の中で、この前脈絡叢動脈瘤は少ない


なのに、なぜUCASJapanには1245個も登録されているのか

(ちなみにIC-Pcomは1037個で、この「その他の内頚動脈瘤」より少ない


生データを見た訳ではないが、一般的な脳ドックで見つかる動脈瘤のことを考えると、UCASの「その他の内頚動脈瘤」の大半は傍突起部動脈瘤、つまりIC-Pcomより心臓側の骨の近くの動脈瘤と考えられる。



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もちろん、全く出血を起こさない、というわけではない。


実際に、傍突起部動脈瘤から出血してくも膜下出血や脳内出血を起こして搬送されてくる患者さんはいて、個人的な経験(0.5%未満)では2通りに分かれる。


一つは、上向きに大きくなった動脈瘤で、このタイプは動脈瘤が脳の中に埋まっていることが多いためか、脳内出血+くも膜下出血としてやってくる。

自験例だと、最小10mm。

なので、この部分にできているものの中で、上向きの大きめの動脈瘤については治療を勧めることがある


もう一つは、上向き以外だけれど、

「ご本人、目が見えづらいと言っていませんでしたか?」というような、出血前から視神経を圧迫していたと思われる大きい動脈瘤

(自験例では15mm以上。600件以上コイル詰めている同僚も、内向きの傍突起部瘤によるくも膜下出血は、大きい動脈瘤2件しか見たことないとのこと)。


もちろん、自分がくも膜下出血の患者さんを(何百件かは見ているが)何千件も見ている訳ではないので、5mmとか7mmの上向き以外の傍突起部動脈瘤が出血することもあるのかもしれないが、おそらく「まれ」。


つまり、「その他の内頚動脈瘤」の中には、「実際に無視できない頻度でくも膜下出血の原因として見つかる動脈瘤」と、「くも膜下出血の原因になることがほとんどない動脈瘤」がいっしょくたにされているということ。


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「内向きの傍突起部動脈瘤が出血を起こすのは稀だと思うんだけど、治療する意味あるの?」と、(もしかしたら患者さんにも)失礼な質問を、いろいろな血管内治療の先生にすることがあるが、

「いや、多分出血しないけど、手技もそれほど難しくないし」という返事が返ってきたことがあって、愕然としたことがある。


個人的には上向きと10mm越えの大きいもの以外は、経過観察一択だと思っているが、そういう動脈瘤は10年経っても何も変化しない、という方も多く「検査自体が不要では?」とさえ思う。


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とはいえ、UCASデータを元に「『その他の内頚動脈瘤』の出血率は小さいがゼロではありません。」と説明されると不安になるかもしれません。


そのような場合は、「先生は、この場所、この向き、この大きさのくも膜下出血の患者さんを”実際に”見たことありますか?」と、訊いてみるのも一つの手かもしれません。

(ただし傍突起部動脈瘤に限る)



(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)



(別に出血する可能性がゼロではないし、安全なんだから目くじら立てる必要あるの?という向きもあるかもしれませんが、「脳外科医って忙しそうにしているけど、やらなくても治療に忙しいだけでしょ?」とか「意味ないことに医療費費やしている連中でしょ」と思われて、一緒にされると困る、ということです。)


「治療する方が良いと考えられる未破裂動脈瘤」についてはこちら

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