老化は経年変化による劣化ではなく、成長・成熟と同じようにDNAに組み込まれ、管理されたメカニズムである、という本。
しかし、個体の生存あるいは遺伝子を残すために合理的な成長や成熟といったメカニズムと異なり、老化は個体にとっては「衰え」であり、デメリットだ。
ではなぜ、そんな現象が淘汰されずに残っているのだろうか?、ということについて議論が進められる。
「老化? そんなの当たり前じゃん!」というのが、実は当たり前でないことが、まず提示される。
ヒトでは生殖可能年齢は、思春期以降、女性だと閉経までということになるが、これは必ずしも生物一般に当てはまることではなく、カメやハタネズミは年を経るほど生殖能力が上がる。
植物ではユタ州のアメリカヤマナラシは樹齢(?)8万歳ということらしい。
様々な例が提示し、著者は「進化の結果、老化メカニズムを持つ種が生き残ってきた」と結論づけている。
つまり個体のことだけ考えるなら、それこそ「不老不死が最適」ということになる。
(そこまで行かなくても寿命が長い方が優性になるはず)
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一方で、遺伝子コピーを増やすという利己的な遺伝子の目的もかなえようとするならば、生殖能力が高い個体が生き残るということになる。
そうすると、短期的にはよいかもしれないが、少し長めのスパンで見てみると、この不老不死多産の種で一帯が埋め尽くされてしまい、結局、食料なり資源が消費し尽くされて滅亡するしかない。
そのため、老化を組み込むことで、年老いた個体が(捕食者から逃げられなくなるなどして)集団から取り除かれていくことで、種としての進化が進むようになったと述べている。
(先進国の医療費問題のアナロジーのようにも聞こえる)
進化論業界のことはよく知らないが、主流派は遺伝子が「個体の存続」より「集団の存続」を優先する、という考え方には批判的らしい。
著者によると、結局自然は老化を選んだということであり、それ故、『「自然食」ではアンチエイジングにならない』という主張もちょっと笑いを誘う。
(ちなみに著者はカウンターカルチャー世代で、大学生のときに最初のアースデイを祝った、健康食品を常食するタイプだったと述べている)
そして、現在の「科学的な」知見に基づき、長生きにつながる方法について言及している。
それは当然自然の流れに逆らうものであり、(crack the aging codeという原題にが示すように)生体のメカニズムをhack するものになる。
(いくつかを挙げておくが、興味があれば読んでみてほしい)
断食
一定期間の断食は、線虫でもマウスでも寿命を延ばす。(今の日本の長寿は、やはり戦中戦後の食事に事欠く時期のfastingが一定程度影響しているのでは?)
運動 (しかも激し目の運動)
抗炎症プログラム(アスピリン、魚油など)
アスピリンに関しては、昨年無症候の人に飲ませると出血性合併症によりメリットが相殺されるという結果が報告されている。ただし、老化の多くの現象は炎症の結果。
カレー(笑)
ビタミンD
メラトニン
カルニチン、レンゲソウ、緑茶;テロメラーゼの活性化によりテロメアが短くなるのを防ぐ
今後の展望
輸血
若者の血漿を輸血することで、マウスでは古い幹細胞が若い幹細胞のように働きだし、アルツハイマー病のモデルでも記憶・脳機能の一部を取り戻す。
この結果をもとに、実際に比較的軽めのアルツハイマー病の患者さんを対象にしたphase 2試験が行われ、最近のJAMA Neurologyに安全性などに関する結果が出ていた。
Safety, Tolerability, and Feasibility of Young Plasma Infusion in the Plasma for Alzheimer Symptom Amelioration Study A Randomized Clinical Trial
しかし、献血で集められた血液が、年寄りの若返りのために使われるとしたら、献血者はどう思うだろう。
本書でも、現実的な解決策とはなりにくいとしている。
ただし、血漿のどの成分が有効か、が分かれば実用的な応用ができるだろう。
iPS細胞
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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