*糖尿病の治療にアスピリンという話ではありません。
糖尿病は心臓・血管系(脳卒中を含む)を詰まらせて、生命に関わってくるが、糖尿病があるけど、心筋梗塞や狭心症は起こしていない人にもアスピリンを飲んでもらう方がいいんじゃないか?という研究。
The ASCEND Study Collaborative Group
アスピリンは高校の化学にも出てくる古い薬で、今でも立派に使われている偉大な薬だ。
(バファリンの有効成分。)
脳梗塞の予防に小児用バファリンが処方されることもある。(アスピリン81mgが入っている)
40歳以上で糖尿病の診断が付いている15,480人をアスピリン100mg/日と偽薬にランダムに振り分けて、7.4年経過を見た。
すると、やっぱりアスピリンを飲んでいる人は、そうでない人より12%心筋梗塞・脳梗塞・一過性脳虚血発作が少なかった(レート比0.88, 95% CI 0.79-0.97)。
ところが、アスピリンや他の抗血小板薬を飲んでいると、脳出血を含め、血が出やすくなる合併症が知られており、この研究でもアスピリンを飲んでいる人の4.1%に出血が見られた。
飲んでなくても胃潰瘍や脳出血を起こす人もいるので、比較が重要なのだが、レート比で29%多かった。(レート比1.29 95%CI 1.09-1.52)
結果的に、血管が詰まったり細くなったりするイベントは少なくなるが、出血が増えるので、そのメリットは相殺されてしまう、という結果だった。
ただ、胃潰瘍からの出血くらいであれば、PPIのような胃酸を抑える薬を飲むことでかなり抑えられると論文の中でも言及されている。
またスタチン(コレステロールを下げるような薬)や高血圧の治療も行われていて、ということなので、脳出血は抑えられていたのかもしれない。(55件(0.7%) vs 45件(0.6%))
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さて、では糖尿病がある場合に飲みますかという話になるが、ある女性のことをいつも思い出す。
無症状なのにアスピリンを飲んでいて、脳出血・手術になったという方は何人かいるが、その女性は近所の病院長の婦人で、おそらくご主人か担当医が良かれと思って処方していたのだと思う。
大きい出血だったので、結局左半身が完全麻痺で、半側空間無視などの高次脳機能障害がバッチリ後遺した。言葉づかいもやや横柄だったが、それでもしゃべるとウィットに富んでいて面白い方だった。
アスピリンを飲んでいなければこんなデカい出血にならずに済んだのでは、と思ったものだ。
心筋梗塞や脳梗塞を予防するメリットはありそうだが、よく言われるように日本人では出血性合併症が白人より問題になるので、この研究の結果をそのまま本邦に当てはめるのは正しくないかもしれない。
ま、我々脳外科医が遭遇するのは、ツイてない(?)ごく一部の患者さんに過ぎず、思い切りバイアスがかかっている見方なのだが、症状が無いなら飲む必要無いんではなかろうかと思ってしまう。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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