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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

手術に役立つ臨床研究

自分は(Impactの少ない)Technical note、症例報告などの論文しか書いていない臨床医だが、それでも自分がやって来たことが後進の外科医や、間接的に同じような病気で困る患者さんに役立てばと思っている。


論文の書き方、というより研究にも当然方法論があり、最近は分かりやすい教科書も出ているが、外科系の研究は内科の研究のようには行かない部分がいろいろある。


たとえば、手術の有効性について述べるにしても、年齢や全身状態から手術が可能な方とそうでない方でそもそも予後(余命)が違うとか、手術した患者さんの方が”より注意して”経過を見ているといったバイアスが生じうる。


せいぜい、後ろ向き(retrospective)にカルテを調査して発表するというのが関の山(?)だ。


臨床研究

本多通孝先生は、京都大学福原俊一先生のところで臨床研究の方法について学ばれた方だが、もともと外科医でこの辺りの外科業界の機微をよくご存知であり、外科医の習性を把握した上で、外科ならではの臨床研究の手法を、懇切丁寧に書いている。


まず外科系の研究を次の3つに分けている。つまり

  • 術式Aと術式Bを比較する研究(職人系)

  • 周術期の管理方法を比較する研究(部活系)

  • 手術と保存的治療(内科療法または経過観察)を比較する研究(懐疑主義系)

これらとは別にリスク因子の研究というのもあるものの、この本では「リスクの探索といった単調な横断研究から脱却し(耳が痛い)、いかにして説得力のある結果を示すための方法論を身につけるか」ということを主題にしている。


この方法論に関して分かり安く書かれているのだが、著者によると臨床研究にもっとも大事なのは「臨床医が持つ疑問(clinical question)を解決する方法を追求すること」なのだ。


本書で挙げられてる例では「虫垂炎の手術適応はどのように決めたらいいのかな?」といった漠然と思いつく疑問をどのように解決するか(解決可能な疑問=research question)に落とし込むかということ。


そして、この解決方法というのは、臨床家自身が考えて何とかしないといけないことで、統計学者に丸投げできるようなものではないということだ。


そもそも、臨床研究というのは自分の疑問を解決するために行うものなので、「自分自身の臨床をよくするために行うものなのです」(p6)とは至言である。


その方法論=各章の内容に関しては実際に目を通していただくのがよいと思うが、自分で研究しようと思って悩んだことがある外科医なら、学びに満ちた教科書だと思う。


(蛇足だが、動脈瘤に関する某研究も「臨床医が統計化が何をいっているのか最後まで分からないまま結論だけを発表し、(中略)研究を終える」『臨床医は統計家に「発表に値する結果は何か?」と言うことばかりを求め、「統計家に依頼して得た結論だから正しい」などと主張する一方、統計家は「臨床医がそのような解析を依頼してきたから結果を出しただけで、医学的な意義があるかどうかは分からない」』というケースになってしまったのではないだろうか)


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)





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