以前から気になっていた本。
バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
何度か書いているけれど、自分は、かつては臨床ではなく研究者になりたいと思っていたのだが、学生時代に参加させていただいた実験で、ネズミを死なせて神経細胞を取り出すルーチンに馴染めず、当時の大学院生が「先週はネズミ200匹から新しい蛋白の候補をxx個つり上げて…」とプレゼンしているのを聞いて、断念しました。
そもそも、研究者という仕事を甘くみていたのが間違いだった訳で、脳外科医という、それなりに頭を使って、かつ器用さと体力を生かせる、多分天職といっていい仕事に出会えて、本当に良かったと思っています。
故堤一生先生には本当に感謝しています。
「以前の自分も含め、大勢の若い研究者はパソコンの前で、オフィスの中で研究している。自然を理解せずに生物学を勉強することが、どれだけ多くの危険に満ちていることか。」
もちろん脳外科でなくても、医者として目の前の患者さんを治療する中で疑問が生まれ、それを元に一生を捧げられるような研究テーマに会える幸運な方もいます。
そういう地に足の付いた研究ができたらいいなと、漠然と思っていましたが、自分のように動脈瘤も脳腫瘍も三叉神経痛も気になるという移り気な人間には、難しいのかなと思っています。
(血管・腫瘍・外傷・先天奇形・機能的疾患など、いろいろな病気を手がけることができるのが脳外科の良いところでもありますが)
*************
著者は、ファーブルに憧れるポスドクで、幼少時から「緑色の服を着てバッタに食べられたい」という妄想を持つ、文面だけ読むとかなり変わった方のようですが、こういう強いモチベーションがある方こそ、研究に向いているんだな、と痛感しました。
そして、巷間知られているように、博士号取得後の大学などの、有給かつ期間付きでない職は限られており、期限付きで結果を出さなければならないというのは相当のプレッシャーです。
著者は、そんなプレッシャーをも面白おかしく、ときに泣かせる文章で、研究生活にまつわる失敗・成功を語っています。
研究費を稼ぐために、SNSを利用したりブログを書いたり、というところは今風ですが、ポジションが得られたところで
「もう金の心配などせずに、研究に集中してもいいのだ。ようやく、ようやく、ようやく。」
と繰り替えすところは、涙が出てきました。
子供の頃からの妄想を、食べられる仕事に繋げられて本当に良かったですね、と思いながら、我が身をなんとなく恥じる1冊でした。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
Comments