今年は、過去の仕事をいくつかまとめることができたので、
ヨーロッパ脳外科学会の学術総会(EANS 2018 in Brussels)に参加してきた。
(発表内容に関しては、日本の総会などで話した内容の焼き回し)
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日曜日 (21 Oct)はなぜかOpening ceremonyだけだと思い込んでいて、午後遅めのセッションから聴講。
AustraliaのDr. Kayeが聴神経腫瘍の聴力温存手術に関して話していた。
Koos分類IIの中でも小さめな、いわゆるV-zoneが容易に確認できる腫瘍の成績で、温存率57%くらいだったと思うが、この成績をもって「聴力温存目的の手術は妥当である」と結論づけていた。
確かにそのまま方っておけば、いづれ病変側の聴力を失ったかもしれないが、5人中2人は手術によって有効聴力がなくなったという結果から、どうして「妥当である」という評価になるのだろうか?
(ちなみにDr. Kayeの成績は本邦と比べても遜色ない)
また聴神経腫瘍の手術を専門にしている医者は特にそうだが、SRS(ガンマナイフ・サイバーナイフなど)後に悪性腫瘍になるという報告もある、と引用するのだが、かなり稀な事象を引用しても仕方ないように思われる。
自分も外科医なので気持ちは分かるのだが、手術群と経過観察群(もしくは放射線治療群)を比べて、xx年後の聴力、QOL、三叉神経痛・小脳症状の出現、腫瘍サイズなどで比較しないと、妥当性は言えないと思う。
同じセッションのProf. P. Vajkoczyの話はstraight-forwardで、巨大MCA動脈瘤に対する治療方針を形態だけで決めて治療しているという発表。
つまり紡錘状動脈瘤やserpentine、血栓化の有無は半ば考慮に入れずにやっているという話。
特にM1部分に関してはバイパス後の血栓化の問題もあると思うが、血栓化しているような患者さんでは既に側副血行ができているので、瘤自体を操作しない方がよいということだと思われた。
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Dr. Xu Bin (上海)の発表はもやもや病の手術の話だったが、moyamoya病>2000件の経験という「誤植?」という内容で、これがこの学会に参加して一番印象に残ったものだった。
(ちなみに例えば出血発症もやもや病の多施設前向き研究であるJAM trialの患者数=80人。。。)
直接/間接血行再建を原則両方やっていて、中硬膜動脈などの側副血行によっていろいろ使い分けているという話だった。
技術的な面で面白いと思ったのは、細い分枝をあえて遮断せず、少し内腔に血液が入り込むようにして(内腔を拡げて)縫うことで、裏縫いを避けるようにしていることと、ラバーシートを敷かずにやっているということだった。
前者に関しては、「さもありなん」とは思うのだが、
助手が適切に洗浄しながらでないと、やはりやりにくい (助手の技量に成績が左右される可能性がある)
髄液に血液が混ざることで、術後の嘔気・嘔吐に繋がる可能性がある
ビデオ映えしない
ということから、自分ではやっていない。
日本の多くの施設は、血のない術野を作ることが肝要と考えているので、新鮮であった。
とにかく、もやもや病の血行再建ばかり1日10件手術しているということなので、もはやマシンの域という感じだった。
インドのProf. Misraの動脈瘤の話はencouragingであるが、やはり巨大脳底動脈先端部瘤>100例の経験という話。
術野を広く展開することが肝要、Adenosineによる一時的心停止も有用という話だが、Death, persistent vegitative state以外の成績の評価がきちんとされているのかがいつも気になる。
(少なくとも高次脳機能評価まではまだ難しそうだ)
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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