昨年後半くらいから、40代、50代男性の重症脳内出血の方が続いて、たぶんその前から高血圧があったのだろうな、とは思うものの、血圧だけが問題では無さそうで、体重も80kg, 90kg越えでした。
「太っている」だけで脳外科の外来を受診する方はいないものの、肥満は睡眠時無呼吸症候群(=脳卒中の危険因子)の原因となります。
たしかに、「運動もしているんですけどね~」という肥満気味の方も多数いらっしゃるので、「なぜ?」とか、申し訳ないですが「本当に運動しているのかな?」と思っていたので、読んでみました。
「運動をして、筋肉量が増えると、基礎代謝が上がり、脂肪が燃焼される」と思っていたのですが、違っていたようです。
結果として、自分としては腹落ちしたのですが、結論としては
痩せるためには、食べる量(カロリー)を減らすしかない。
運動は減らした体重を維持するには有効。
それでも運動する方が、認知機能や他の臓器の健康のためにはよい。
ということでした。
*************
なぜそうなるのか?
まず、われわれに必要なカロリーってどれくらいなのか?
その測定方法がいろいろ提案されているようですが、身長/体重/年齢から基礎代謝量(BMR)を推定し、それに1日の活動に必要なカロリーを加えて計算するのが一般的だったようです(要因加算法)。
しかし著者は、「要因加算法に基づいて得た推定値の妥当さの裏には、根本的な欠陥が隠されている」といいます。
「1日の活動レベルは1日の消費カロリーとはほとんど関係ないのである」
加えて、成人の標準摂取カロリーの常識も間違っている、と言っています。
人が1日にどれくらいの食物を食べているか自己申告させる方法での調査を元に、女性は1600−2200カロリー、男性は2000−3000カロリーと報告され、FDAは2000カロリーを推奨としています。
ちなみに日本の推奨カロリーは「活動量の少ない成人女性の場合は、1400~2000kcal、男性は2200±200kcal程度が目安」(農林水産省ホームページ)
これらの推定法(測定法ではない)ではなく、もっと正確な消費カロリー測定が、放射性同位元素を用いることで可能になります。
つまり、食物でも体脂肪でも、そこからエネルギーを取り出した結果として、必ず水と二酸化炭素が生じます。そこで被験者に放射性同位体を含んだ水を飲んでもらい、尿に含まれる酸素と水素の同位体を測定することで、1日のカロリー消費量を正確に求めることができるわけです。
1982年には、必要な放射性同位体のコストが下がったおかげで、ヒトでもこの方法でカロリー消費量を計測できるようになったそうです。
この方法で、ヒトや他の霊長類の代謝がどうなっているかを調べたところこのようなグラフになりました。
同じ体重でも1日の消費カロリーは300カロリー近くばらつきがあります。
本書では、その理由を、ヒトの進化の過程に思いをはせながら推察していくのですが、結論としては、食欲や満腹感を司っている脳の視床下部が、ホルモンなどを介してカロリーの消費もコントロールしており、消費カロリーが一定の範囲に保たれるのです。
つまり、余分に運動するなどして普段より過剰なエネルギーが消費されると、脳が命令を出して、別の部分、例えば免疫系の働きを抑えるわけです。
結果、トータルでみた消費カロリーは減らない。
しかし、そのトータルの消費カロリー自体はなんとか賄わなければならないので、食べる量(摂取カロリー)が消費カロリーより少ないなら、身体の中に蓄えられているエネルギー(=グリコーゲン、脂肪、筋肉など)を分解して賄うようになるので、体重が減ります。
以前、ダイエットのために腸に寄生虫を飼う、というものがありました。著者の考え方に従えば、寄生虫が余計な食物を食べてくれるからではなく、寄生虫感染によって好酸球などの炎症細胞が活性化されることにエネルギーを取られるから痩せるのでしょう。
なので、体重を減らすなら、まず食事制限。
それしか無いようです。
*************
面白いなと思ったのは、自分もそうですが、「デザートは別腹」と、結構満腹感があってもデザートは食べられたりします。
この理由として、デザートより前に出てくるメニュー(肉や野菜を調理したもの)は、本来生物にとって貴重なタンパク質や塩分に富んだものが多く、視床下部的には「タンパク質・塩分はもう十分」と認識している一方、甘い物(=炭水化物)については「十分でない」と認識するためと考察されています。
確かにそういうこともあるかもと思いました。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
留言