というtweetがあったので、もとのCochraneの論文を(かなり長いので重要そうな部分を)読んでみた。
Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jan 31;1:CD009009. doi: 10.1002/14651858.CD009009.pub3.
一般健診というのは、たとえばある地域の住民など、病気に関して特定のリスクがあるとは分かっていない集団に、採血、心電図、レントゲンなどの健康診断を行うもの。
まず前立腺がんや、婦人科検診などとは異なるので注意が必要。
この論文はsystematic reviewで、いままで発表された健康診断に関するで、前向き調査であることなどの条件に合った論文のデータをまとめて、一般健診を受けたグループと、受けてないグループの予後を比べた。
17本の研究が採用され、その中の15本で251,891人の予後が報告されていたが、健診を受けなかった群に対する健診を受けた群の「全ての死亡」リスク比は1.00 (95%信頼区間 0.97-1.03)で、受けない人と差がなかった。また、
「癌による死亡のリスク比は1.01 (同 0.92-1.12)で、健診の影響なし。
心血管死 リスク比 1.05 (同0.94-1.15)、脳卒中も 1.05(同 0.95-1.17)で、健診の影響はないか、ほとんどない。
という結果だった。
「健康診断、意味ない」説は前からあるし、今回の著者も2012年に同様のreviewを行っていて、今回はそのupdateである。
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じゃあ、「健康診断で意味がある」としたら、どういう意味になるだろうか?
個人にとっては、長寿、というよりは健康寿命になるだろう。あるいは子供が独り立ちするまで元気だったらいい、という考え方もあるかもしれない。
企業にとっては、退職まで元気に働いてくれればよい、ということになるだろうか。
(病気になった場合の支払い側である)健康保険組合も同様だが、退職後もカバーする保険の場合は若干ニュアンスが変わる。
行政からすると、やはり大きな病気にかからずに、税金を払ってくれるのが一番ということになるかもしれない。
なので、「意味が無いなら、誰にとって、どう意味が無いか」という見方で読む方がよいと思う。
採用された研究は、65歳以上のみを集めた研究は除外されている。
(採用された研究に、高齢の方が入っていないわけではない)
観察期間は4年から最長30年(中央値10年)。つまり半数以上は10年以上の経過ということ。
また「死亡」がどれくらい起こったかをみると、2%-36%(!)に起こっている(中央値10%)
つまり、健診受けていても受けていなくても、観察期間が長くなれば、(特に高齢の方が含まれていれば)亡くなる方が増えてくるということも影響しているのではないだろうか。
10年程度の短期で、もし差が出るのであれば、検診の効果もあると思うが、著者らはこの「短期のメリット」についても一応言及している。
つまり「過剰診断・過剰治療によってメリットが相殺され」たり、狭心症などに対する一次予防については、「NNT(1件の発症を防ぐために治療しなければいけない人数)が大きすぎる」ことを指摘している。
前者に関しては、癌検診が引き合いに出されているが、検査や治療によって合併症による亡くなる方のことを指している。
外科医としては真摯にこの批判を受け止める必要はあるものの、この調査では1960年代、70年代の調査も入っており、脳外科に限らず、外科治療の安全性・危険性をそのまま現在と比較するのは不適切な可能性がある。
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しかしながら、自分としては、この研究で俎上に上がっている「一般人口に対する一般検診」を積極的に支持するつもりはない。
ただ、脳卒中診療を行っていると、40代、50代前半で、脳出血やくも膜下出血を起こされる方も結構な頻度でおり、後遺障害が残って転院するということがしばしばある。
特に脳内出血は後遺症を避けられないが、本来は高齢者の病気であり、血圧をコントロールできていれば防げることがほとんどだ。
働き盛りで多忙なビジネスパーソン、というか、高血圧性脳内出血で運ばれてくるのは圧倒的に男性が多いのでビジネスマンで良いと思うが、彼らに、少なくとも喫煙習慣、血圧管理、血糖値異常があるなら、強制的な検診によって、その治療を受けてもらう機会を作るというのは意味があることだと思っている。
(ただ、これは一般人口に対する一般検診とは違うので、この研究の意図するところとも異なる)
医者も不養生ではあるのだが、年に1度や2度検診を受けて、自分の身体のことを考える機会を持つのは、長期的なパフォーマンスのことを考えてもよいと考える。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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