動脈瘤の研究でお世話になった東大臨床疫学・経済学教授 康永先生の著作。
医療経済学的な見地から、昨今、破綻するのではないかと問題になっている医療について、これを減らすことができるか?減らせるとしたらどの部分か?、について分かりやすく書かれている。
もちろん政府も医療費高騰を抑えるべく、いろいろな政策を打ち続けているが、全部でないにせよ「医療の中身を考慮しないで一律に医療費を切り捨てるという政策」であり、ばっさり切れば医療の「質の低下」に繋がってしまう。
ではどうすればいいのか?ということになるが、現行の制度を変えるには国民の合意が必要ということ。
この本は、医療費・医療の経済的側面をより広く知ってもらい、この合意に少しでも近づければというものかもしれない。
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じゃあどうすれば良いのか?
著者は、不必要な薬、検査は止め、病院が多すぎる状況を変えるべきだと述べる。
まず薬に関しては、よく指摘される「風邪に抗生物質」をはじめとして、根拠のない治療を止めるべきと断じる。
同様に効かない(意味が無い)ものとして、既に黒歴史となった感がある脳循環改善薬(アバン、カランなど)とともに、余命が1年以内の高齢者にスタチンを処方しても意味のある効果はないという研究にも言及されている。
この中に、ozagrel, argatrobanも欧米では使われておらず、著者らの評価でも脳梗塞に対する効果は実証されなかったとあり、さもありなんと思われた。
このような、本当に効いているのか?という薬に関して再評価すべきと述べられている。
不必要な検査に関しても、これも既に言われていることだが、CT,MRIの台数が多すぎることで、必要のない検査を行われている状況を概説し、イギリスで行われているような台数規制が必要と述べている。
後半で、様々な研究で医師誘発需要があるという証拠はないと述べているが、こと画像診断に関しては機器誘発需要というものがあるのではないかと思う。
「風邪に抗生物質」とか「軽症頭部打撲にCTは不要」等は、本当に義務教育レベルで教えてほしい内容だ。
著者は、日本には病院が多すぎ、そのために実際の人口当たり必要な医師数以上に医師不足感が生じている述べている。
これもまさにその通りで、特に外科系に関して言えば、外科医・麻酔科医をはじめとして、手術室スタッフや機器類に関しても集約化することで、個々人の負担を減らし、結果的に(深夜の緊急手術も含めて)医療のレベルが上がる可能性が高いと思われる。(医者の給料は下がるかもしれない)
(8月に入って、自分も含めて夏休み取得期間になり、当直頻度が増しているため、余計にそう思うのだが)
また医療の質・アクセス・費用の3つはトレードオフの関係にあり、この3つを全て満たすことは出来ないため、アクセスを制限すべきと述べている。
そのため地域でかかりつけ医を複数から選んでもらうようにして、専門科はそこからの紹介のみにするべきとしている。
つまりイギリス式ゲートキーパーを作るということだ。
脳外科医の立場からは賛成だが、開業医や患者さんの一部はいやがるのかもしれない。しかし、医療の質を下げることも、費用負担を上げることは(患者さんには)受け入れられないだろうから、アクセス制限は必要だろうし、現在も選定療養費制度等として徐々に導入されている。
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ちなみ予防医療は医療費の高騰を抑えるわけではないことも分かりやすく述べられている。
禁煙は有無を言わさず必要だし、肥満の人はダイエットすべきだが、それは医療費が沢山かかる死ぬ前の時期を先送りするだけで、医療費の削減には繋がらない。
しかし、80歳で亡くなるのと、40代50代でまだまだやりたいことがあるのに死亡したり、寝たきりになったりすることを防ぐという意味で必要なのだ。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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