脳動脈瘤の根治的治療には、開頭手術(主にクリッピング術)と血管内手術(コイル塞栓術)がある。
コイル塞栓術の方が、豚などのモデルを用いた練習ができることも(一定レベルの腕前になる)上達が早く、大体において治療時間が短いこともあって、今後もこちらが増えていくと思われる。
自分は開頭手術専門なので、コイル塞栓術が行われ始めた頃から言われている、「根治性、長期的に出血を防げるのか?」については気になるところだ。
経験的には3年間安定していれば大丈夫というDr.もいるが、この3年を超える長期の成績がどうなのか、ということについて調べた論文
J Neurosurg. 2019 Aug 16:1-7. doi: 10.3171/2019.5.JNS183651. [Epub ahead of print]
ソウル大学病院からの成績なので、人種的なことを考えると、日本人でも大体同じことが言えると思われるが、
”血管内手術を受けて、3年間、再開通を起こさなかった患者さん”を追跡して、(後方視的に)調べたところ、このような患者さん299人(複数動脈瘤を持っている人もいるので、339動脈瘤)を、平均6年(±2年)目まで調べた。
その結果、5人の患者で再開通が見られ、1人に追加治療が行われた。
人年法で計算すると、0.45人/年だった。
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コイル塞栓術が行われ始めた頃は、
「治療後の、動脈瘤の中にコイルが入った状態で大きくなったり、くも膜下出血を起こして、治療が必要になる患者(=治療が難しい)さんが続出するに違いない。大変だ!」
と思っていたが、実際にはそんなことはなく、やはり有効な治療であることは間違いない。
この0.45%くらいしか、再開通しない、しかも再治療が必要になる人がそんなに少ないのであれば、
「もう開頭手術はほとんど必要ないな」
と思うのだが、内容を詳細に追うと、この数字はいろいろなバイアスの結果だということが分かる。
まず、当然といえば当然だが、治療される前に「開頭手術と血管内手術、どちらが良いかを両方の専門家が議論して」治療適応を決め、血管内手術の方がよいだろうとされた患者さんからの出発になる。
なので、”開頭手術の方が良さそう”と考えられた患者さんは、そもそも除外されている。
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2008年から2010年に血管内手術を施行された動脈瘤が1035個あり、そのうち186個 (18%)は3年以内に再開通を起こしている。
経過観察されていない66個の動脈瘤と、いわゆる嚢状動脈瘤でない70個も除外。
完全閉塞とされた713動脈瘤のうち、3年間経たないうちに経過を追えなくなったものが374個、つまり、半数以上は、患者さんが安心して病院に来なくなったためか、何らかの理由により、経過を追えなくなっていた。
その残りが299人(339個の動脈瘤)ということ。
(続く)
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