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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

脳動脈瘤とマグネシウム

マグネシウムは亜鉛などと同様、血液中に溶けている微量元素ですが、近年、血圧や血管をよい状態に保つために必要であることが分かってきています。


そこで、血液の中のマグネシウム濃度が脳動脈瘤ができることや、くも膜下出血に影響しているのではないかという疑問があります。


しかし、動物実験ならともかく、脳動脈瘤ができるにはかなりの時間がかかる可能性があり、マグネシウムが高すぎても問題になることが分かってきているため、ヒトで試すこともできません。

そこで、今回Neurology誌に取り上げられた研究。


Neurology. 2021 Jul 27;97(4):e341-e344.

Larsson SC, Gill D.


Menderian randomizationという手法を用いた研究で、方法が面白いので読んでみました。


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ヨーロッパ人で、全ゲノム関連研究で血中マグネシウム濃度に影響するような一塩基多型が何種類か知られており、7,495人の脳動脈瘤患者で、この一塩基多型に差があるかを調べた。


https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34158381/
0.1mmolの上昇によるオッズ比

結果としては、マグネシウム濃度が高いほど、脳動脈瘤・くも膜下出血ともに、「統計学的に有意に」低い人より少なかった。

しかし、同時に集められた血圧データで補正すると、統計学的に有意な差は見られなかった。


ここで、マグネシウム濃度に影響を与える一塩基多型は、先祖のどの段階かで遺伝子に組み込まれていて、それは研究者がコントロールできないので、その段階でランダム化が行われたのと同じように扱うことができる。


つまり、マグネシウム濃度に影響を与える遺伝子レベルで、ランダム化比較試験を行ったのと同様に考えて、脳動脈瘤の発生をみたことになる。


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Menderial randomizationについては疫学の先生のサイトを読んでよく分かりました。


血中マグネシウム濃度は、それ自体 もしくは血圧に影響することで脳動脈瘤ができること(そしてその後のくも膜下出血)に影響を及ぼしている可能性がありそう、という結果でした。


遺伝子をコントロールすることは難しいですが、血液中のマグネシウム濃度に影響を及ぼすことは可能です。

しかし、残念ながらくも膜下出血予防のために、薬でマグネシウム濃度を上げるというのは、お勧めできない方法です。


例えば、酸化マグネシウムはよく用いられる便秘薬ですが、長期投与で高マグネシウム血症を起こし、まれに意識障害、不整脈、心停止を起こすことがあるというので数年前に話題になりました。


また、低マグネシウム血症、高マグネシウム血症の両方が、認知症に関わっているという研究もあります。


こういう低くても高くてもダメというのは、一般的なコントロールには向きません。


現時点では、禁煙、血圧コントロール、十分な睡眠、運動、定期的な歯科検診、(大きい動脈瘤は手術治療(クリッピング/血管内手術))をお薦めします。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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