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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

穿頭手術は手回しドリルで行うべきか?

更新日:2018年9月5日

頭蓋骨に1つだけ孔をあける手術がいくつかある。

慢性硬膜下血腫をはじめとして、多くはレジデントが行うタイプの手術だ。


多くの病院で、慣習的に手回しドリルという、かなり原始的な器械を使っている。

つまり、先端が少し尖った角のあるドリルを手で回して、孔を開けるのだ。


脳外科手術, 慢性硬膜下血腫
穿頭手術(Wikipediaより)

本来は最初のとっかかり以降は、回転する先端が骨を削る方向に力が加わるように回すのだろうが、大体において頭蓋骨に対して直角に力を加えて回すことになる。


頭蓋骨は一様ではなく、外側と内側に緻密骨があり、間に海綿骨という少し柔らかい骨が挟まれているため、手で回していると感触が変わるので、そこでストップし、次の番手に変えて、残りの骨を薄くする。


客観的に見ると、やはり危ない道具だが、それほど無茶苦茶 力を入れる人もいないので、トラブルになることはあまりない。

ただ、慣れてくると、最初の穿頭器で「寸止め」しようとうする邪(よこしま)な意志がはたらき、トラブルの元になるのだろう。


脳神経外科M&Mカンファレンスというテキストには、これにより脳損傷を来たした症例が載っており、訴訟になったようだ。

興味深いのは、術者がレジデントではなく中堅の医師というところ。やはり慣れてきて、邪念が出たのか、気の緩みもあったということだろう。


この事例が聞こえてきたため、前職の途中から、穿頭手術でもできるだけ、通常の開頭手術で用いるクラッチ付きパワードリルを使うようにしている。


脳外科手術, 慢性硬膜下血腫
クラッチ付きドリル

指導する側から見ると、こちらの方がはるかに安全だし、見ていて安心感があるのだが、以下のような欠点がある。

  1. 海綿骨がもろいときなど、クラッチが外れて最後まで孔が開かない

  2. 手回しドリルの方が、洗浄,滅菌する道具が少ない (手術室スタッフの立場)

  3. 穿頭器を用いて行うのが脳外科医としての当然のステップ(!? レジデントの立場)

(1番目の点に関しては周囲の骨の少し削って、先端のクラッチが再度引っかかるようにすることで、再開できるという発表がSTROKE2018でもあったが、これで対処できる。)


その他の点に関しては、説明するしかない。


ただ手術室の看護師さんからみても、手回しドリル(穿頭器)より、パワードリルの方が安全そうなのは分かりやすいし、手術も早く終わるので、概ね好評である。

(局所麻酔の手術なので、早く終わるに越したことはない!)


レジデント、というか一緒に手術の助手に入る学年などは、教わってきた方法と異なるからか、抵抗があるようだ。


*******************


冷静に考えてみると、穿頭手術以外にこの道具を使うことはほとんどなく、いくらこれに上達しても他の手術に繋がるものではないように思う。

もう少し、大きい開頭手術でクラッチが外れて孔が開かなかったら、別のところに孔を開けるか、ドリルで削ればいいし、その方が大トラブルを起こしにくい。


何かトラブルがあった場合、責任を取るのは脳外科のボスか、病院長になるのだろうが、慢性硬膜下血腫のために裁判所に呼ばれたりするのは全く割に合わないし、安全性が向上するなら、その方が良いだろう。


レジデントに取っても「穿頭器で脳に傷が付いた」という悪評は、結構あとあとまで「あ、穴開けのアイツでしょ」のように枕詞のように言われることを考えると、悪い話ではないと思う。



結局、手回しドリルで孔を開けるのは、歴史を学ぶということ以外の意味はないのではないだろうか?


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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