フィンランドのヘルシンキ大学から出た論文
Huhtakangas J, Numminen J, Pekkola J, Niemelä M, Korja M.
Sci Rep. 2021 Dec 9;11(1):23729. doi: 10.1038/s41598-021-02963-z.
日本では、広く脳ドックというシステムができあがっていますが、もともとは未破裂脳動脈瘤を見つけて、くも膜下出血を予防しようという意図で始まったといわれています。
ところが、普通に脳ドックを受けようと思う方は、どちらかというと健康意識の高い方で、実際にはそういう方に、出血リスクが高い動脈瘤が見つかることは比較的まれでです。
そこで、ある程度くも膜下出血のリスクが高い集団を対象として、検査をしたらどうだろうか、という研究です。
以前から喫煙はくも膜下出血の危険因子であることが知られており、またくも膜下出血は女性に多く、40代後半から50代に多く起こることが知られています。
実際には60歳以降も年齢を重ねるにつれて増加し、男女差も無くなっていきますがが、「年寄りを差別するのか」という声はあるにしても、社会的なインパクトという点では、まだ子育てが終わっていない年齢でのくも膜下出血の方が影響が大きいと言えます。
そこで、実際に喫煙している50代から60歳の女性を対象に、脳の血管の検査を受けてもらったら、「効率よく」未破裂脳動脈瘤を見つけられ、ひいてはくも膜下出血を予防できるんじゃないか、という研究です。
結果としては158人に造影剤を使ったCTを受けてみませんか?という手紙を送ったら、70人が承諾し、そのうち50人が実際に造影CTを受けた結果、10人に未破裂脳動脈瘤(一人は疑い)が見つかりました。
そのうちの一人は7mmと比較的大きめだったので手術治療を行い、他の方には禁煙を勧め、血圧が高い方は下げるような介入を行ったということです。
パイロット研究(小規模で試した研究)なので50人という少ない人数ですが、50人調べて1人手術が必要(=出血リスクが高い)動脈瘤が見つかるというのは、比較的”効率が良かった”といえます。
何度か言及している六本木の脳ドックの解析では、4000人の脳ドック受診者のうち5mm以上の動脈瘤は16人だったので、いわゆる”千三つ”程度の打率でした。
(もちろん、脳ドックで見つかる病気は未破裂脳動脈瘤だけではありませんが)
なので、50−60歳の喫煙している女性を対象として、脳の検査を提案するというのは、「余計なお世話」という声が出なければ、それなりの意味があるでしょう。
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一方、「その『余計なお世話』というところが実際に問題でしょ?」という考え方もあると思います。
つまり、動脈瘤が見つかった10人のうち9人については、「治療の必要はないけど、くも膜下出血のリスクがゼロではない動脈瘤があるよ」ということを知らさせるわけです。
この研究では、検査を受ける前と後で、生活の質(QOL)が下がっていないかどうか確認しており、前後でその点数に差は無いとしています。
もちろん、出血リスクが低い脳動脈瘤が見つかったことで禁煙する方が増えれば、その人の健康寿命を伸ばすことに繋がるでしょう。
しかし、未破裂脳動脈瘤が見つかることで、ちょっとした頭痛でも「くも膜下出血では?」と不安になってしまい、そのうちQOLが下がるのであればあまり望ましい状態ではないですね。
積極的な健診、というか、「医療側から病気を見つけにいく」というのは、予防や公衆衛生の観点からは重要ですが、それが個人の幸福を妨げる可能性がある場合には、やはり慎重であるべきです。
とはいえ、この研究でも、やはり喫煙は脳動脈瘤(とくも膜下出血)のリスクを高めるのは間違いありません。
いつも書いている通りですが、タバコは止めるに限りますね。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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