術前の画像情報は重要だ。
DSAの解像度が高くなったこともあり、脳表の静脈構造もよく分かるようになっている。
Sylvius静脈のパターンも報告されたりして、Sylvius裂を分ける際にどの静脈の間から入るかということが、術前検討されている病院もあると聞く。
でも、それは本当に意味のある検討課題なのだろうか?
おそらく、カンファレンスで「じゃあ、どこから分けるの? 描いてみてよ。」と指示している40代後半以降のドクターが Sylvius裂を熱心に分けていた頃は、「Sylvius裂の前頭葉側を分ける」と教えられていたはずだ。
そして、それで困ったら別のところから入り直していたはずだ。
(邪魔になった静脈は切って進む、という病院もあるだろうが、ここでは言及しない。)
Anterior temporal approachが流行り出すと、今度は側頭葉側から入って、側頭葉から全部剥がすのがよいという流行が生まれた(!?)。
これも有効なことが多いけれど、全部剥がすとなると時間がかかるかもしれないし、横から見るのが全ての場合に最善でもないだろう。
そしてこの両者とも、Sylvius静脈の走行とはあまり関係がない。
**********************
じゃあ、どこから入ればいいのだろうか?
それは分けやすそうなところ。
分けやすそうなところの例としては、
太い静脈が2本あって、その向こう側に脳槽が透けている場合には、この部分が分けやすいだろう。
細い静脈しかない場合、その時は、前頭葉側か側頭葉側で、合流がない方から入るのが合理的だ。
1.5~2mm程度のM4が脳表に出てくる部分があれば、この周りもとっかかりを付けるにはいいはずだ。
特に太めの動脈が複数ある場合にはその間から入って、行き詰まったら、その時に周りを観察して、ワーキングスペースが広くなる方に向かって、クモ膜を剝いて隣の隙間に渡って行けばよい。

なので、静脈パターンの読影をするのも良いけれど、むしろ卓上でバイパスの練習をして、糸を切る長さを正確に同じにする、といったハサミの精度を上げる練習を行う方が、患者さんの脳には優しいはずだ。
気を付ける点としては、橋渡し(bridge)する、静脈が細い枝だけにならないようにすることであり、静脈が太い部分に張力がかかって、のびるようにすることが重要だ。
とくに経験が少ないころは、全ての静脈をバラバラにするくらい熱心に剥離する人もいる。
全てのクモ膜を切るのが上手い手術ではないのと同様、これも間違いだ。
細い静脈がぎりぎりの状態になって突っ張った術野では、太い静脈が延びるよりも、細い静脈が切れる可能性の方が高くなってしまう。
どれくらいの静脈がどの程度伸びるか、そういう視点で他の人のビデオを見るのも重要。
なにせ、パターン認識は我々の脳の得意技なのだから。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
Comments