脳神経外科 木村 俊運のページ
脳外科手術をより安全に
実際の手術
手術は全身麻酔で行い、下の図のように2本の皮膚の血管を利用するような形で行います。(紫:皮膚の切開線, 赤:浅側頭動脈の位置) 生え際の位置にもよりますが、概ね生え際よりも後の創になります。
皮膚の血管を確保し、脳の表面の血管に繋ぎ合わせ、血流を確認して傷を閉じる、という手術です。
手術後はどうしても皮膚の切開線周囲の血流が悪くなるため、抜糸までは10~14日必要ですが、全身の状態が良ければ、1週間程度で退院し、外来で抜糸します。
手術の危険性・合併症
適応に関しては議論があるものの、技術的には確立された手術であり、危険性も知られています。
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バイパス閉塞・脳梗塞
人間が行うことなので、血管がうまく繋がらないという危険性があります。縫ったところで、繋いだ先の中大脳動脈まで詰まってしまうと脳梗塞を起こす危険性があります。
2. 過灌流
ぎりぎりの血流でなんとか脳梗塞にならずに済んでいる部分に、血流が多くなりすぎることで、血液が流れすぎる状態になることが稀にあります。
痙攣発作や、ひどい場合には脳内出血を起こす可能性があります。
3. 術後出血
日本赤十字社医療センターでは、手術前に脳梗塞を起こす事態を避けるため、抗血小板薬を手術当日まで内服いただいた状態で手術を行います。
そのため、手術後に脳と骨・骨と皮膚の間に手術後に血液が貯まって、再手術が必要になる、という危険性が高くなる可能性があります。
(このような合併症を1件だけ経験しています。)
4. 皮膚トラブル
この手術では、皮膚から動脈をとってしまう形になるため、どうしても皮膚の血流が悪くなります。
当院ではできるだけ皮膚の血行を維持できるよう、皮膚切開のデザインに留意しておりますが、通常の脳外科の手術と比べると感染症や、創がなかなか治らないという可能性が少し高くなります。
5. その他全身合併症
この手術の適応になる方の多くは、全身の動脈硬化が強い方になります。そのため、術前術後に心筋梗塞などの心臓発作などの危険性があります。
これに対しては、麻酔科・循環器科などと連携して、手術リスクを減らすようにしています。
後頭動脈ー中大脳動脈吻合術
浅側頭動脈が過去の手術やケガ、もともと発達不良な場合に、後頭動脈を十分長く剥離することで、中大脳動脈に血流を送ることができます。
後頭部は皮膚の組織が固く、後頭動脈が曲がりくねっていることなどから利用するには注意が必要です。
過去にはあまり報告がなかったので、手術方法に関する論文をWorld Neurosurgery誌に投稿し、採用いただきました。
World Neurosurg. 2017 Dec;108:201-205.
Occipital Artery to Middle Cerebral Artery Bypass: Operative Nuances.
本ページの内容は前職(NTT東日本関東病院)在職中、ホームページ上での情報提供のために作成した内容を、一部改変、加筆したものです。