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どのような方にバイパス手術が役立つか

この手術が最も役に立つ患者さん、というのはおそらく、前述のように点滴や内服薬など、内科的にできる治療を十分に行っているにも関わらず、症状を繰り返す、もしくは症状が進行していたり、脳梗塞の範囲が大きくなったりしている方と考えられます。

このような、内科治療では進行を止められない脳梗塞に対して、緊急でバイパス手術を行った成績を欧州脳外科学会誌(Acta Neurochirurgica)に掲載いただきました。

Kimura T, Ichikawa Y, Inoue T. Safety and clinical outcomes of urgent superficial temporal artery-middle cerebral artery bypass-a single-institution retrospective analysis. Acta Neurochir (Wien). 2020 Jun;162(6):1325-1331. doi: 10.1007/s00701-020-04267-z. 

脳梗塞の症状がいったん落ち着いた患者さんに関しては、依然として議論のあるところであり、脳のバイパス手術に関しては、もやもや病の患者さん以外には、今のところ支持する(論文化された)科学的根拠はまだありません。

2011年に発表された北米の施設で行われた調査は、手術後早期の合併症が多く、途中で調査が打ち切られ、抗血小板薬などの薬で治療する方が良いとされました。

日本でも同様の調査が行われ、SPECTなどの検査で対象を限定し、手術を行う外科医に関しても限定したうえで調べると、手術を受けたグループの方が、脳梗塞の再発が少ないという結果でした。(論文としてはまだ発表されていません)

現状では、この手術は、太い血管が詰まっている・細くなっている方の一部にしか勧められません。

 

日本赤十字社医療センターでは、SPECTによる精密検査を行った上で、合併症など全身状態に問題がないか確認し、手術治療を提案させていただいています。

 

実際の手術

手術は全身麻酔で行い、下の図のように2本の皮膚の血管が用いられるような形で行います。(紫:切開線, 赤:浅側頭動脈の位置) 生え際の位置にもよりますが、概ね生え際よりも後の創になります。

 

皮膚の血管を確保し、脳の表面の血管に繋ぎ合わせ、血流を確認して傷を閉じる、という手術です。

 

脳梗塞,バイパス手術

手術後はどうしても皮膚の切開線周囲の血流が悪くなるため、抜糸までは10~14日必要ですが、全身の状態が良ければ、1週間程度で退院し、外来で抜糸します。

 

手術の危険性・合併症

適応に関しては議論があるものの、技術的には確立された手術であり、危険性も知られています。

  1. バイパス閉塞・脳梗塞

人間が行うことなので、血管がうまく繋がらないという危険性があります。縫ったところで、中大脳動脈まで詰まってしまうと脳梗塞を起こす危険性があります。私(木村)のバイパスの開存率は99%以上です。​

 2. 過灌流

ぎりぎりの血流でなんとか脳梗塞にならずに済んでいる部分に、血流が多くなりすぎることで、血液が流れすぎる状態になることが稀にあります。痙攣発作や、ひどい場合には脳内出血を起こす可能性があります。

3. 術後出血

当院では、手術前に脳梗塞を起こす事態を避けるため、抗血小板薬を手術当日まで内服いただいた状態で手術を行います。そのため、手術後に脳と骨・骨と皮膚の間に手術後に血液が貯まって、再手術が必要になる、という危険性が高くなる可能性があります。

4. 皮膚トラブル

この手術では、皮膚から動脈をとってしまう形になるため、どうしても皮膚の血流が悪くなります。当院ではできるだけ皮膚の血行を維持できるよう、皮膚切開のデザインに留意しておりますが、通常の脳外科の手術と比べると感染症や、創がなかなか治らないという可能性がやや高くなります。

5. その他全身合併症

この手術の適応になる方の多くは、全身の動脈硬化が強い方になります。そのため、術前術後に心筋梗塞などの心臓発作などの危険性があります。これに対しては、麻酔科・循環器科などと連携して、手術リスクを減らすようにしています。

その他のバイパス手術

橈骨動脈を用いたグラフトバイパス

​内頚動脈の巨大動脈瘤など、通常のクリッピング手術や血管内手術では治療困難な動脈瘤に対して、腕の動脈(もしくは足の静脈)を用いたバイパスを行っています。

​この手術も技術的には確立されたものと言え、慣れているチームであれば、バイパスが詰まるトラブルはほとんど起こらないと思われますが、それでも頭、頚部、腕(もしくは足)と3箇所に傷ができることになります。

なかでも腕の創はどうしても目立つことから、とくに海綿静脈洞内の動脈瘤に対しては、くも膜下出血を起こす危険性が高くないこともあり、血管内手術(flow diverter stent)、もしくは経過観察をお勧めすることが多いです。

内頚動脈瘤,巨大脳動脈瘤,血栓化動脈瘤

水頭症で発症した、巨大血栓化内頚動脈瘤

巨大脳動脈瘤,バイパス,内頚動脈瘤

浅側頭動脈ー中大脳動脈吻合術(矢印)によりグラフトバイパス(▲)作成中の虚血を防いだ。術後、両方のバイパスが開存。

巨大脳動脈瘤,バイパス,内頚動脈瘤

術後とと6年後のMRI。水頭症は術直後から改善。

​後頭動脈ー中大脳動脈吻合術

浅側頭動脈が過去の手術やケガ、もともと発達不良な場合に、後頭動脈を十分長く剥離することで、中大脳動脈に血流を送ることができます。

後頭部は皮膚の組織が固く、後頭動脈が曲がりくねっていることなどから注意が必要です。​

​過去にはあまり報告がなかったので、手術方法に関する論文をWorld Neurosurgery誌に投稿し、採用いただきました。

脳,バイパス手術,テクニック

World Neurosurg. 2017 Dec;108:201-205.

Occipital Artery to Middle Cerebral Artery Bypass: Operative Nuances.

Kimura TMorita A.

本ページの内容は前職(NTT東日本関東病院)在職中、ホームページ上での情報提供のために作成した内容を、一部改変、加筆したものです。

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