言わずと知れたサイゼリア、その創業者で会長の書いたビジネス本だ。
働き方改革との絡みだけでなく、医療界以外の話、知見が、自分の手術やパフォーマンスに参考になるようなことがあるかもしれないので、ビジネス本もよく読む。
まずタイトルからして厳しい、というか、考えさせられた。
「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」
レストランが提供するのは、おいしい料理じゃないの?
そうではなく、売れているのがおいしい料理なんだ。
自分が脳外科として、患者さん(=社会)に提供できている価値というのは、
「いい手術をして元の生活に戻っていただく」
「脳卒中など救急疾患で最初から厳しい場合には、できるだけダメージを少なくする」
だと思っている。
もちろん外科医なので、「あの人、下手だよ」と思われるよりは、「やつは上手だ」と思われたい。なので顕微鏡での縫合練習をしたり、他の人のビデオを見て、参考になるところは真似し、課題を見つけてそれを自分の手術ではカイゼンして取り入れる、シミュレーションするということを延々やっている。
なので、このタイトルを脳外科業界に当てはめる(?)と
「手術がうまいから患者さんが集まっているのではない、集まっている病院が上手い手術だ」ということになる。
書いてみると、これは確かに真実を含んでいて、たくさん手術をやっている病院の方が、スタッフが慣れているのは確かだ。
一方で、動脈瘤の治療件数というのは、くも膜下出血でいえば、背景人口が40代後半以降の方が多く、病院が少ないところの病院が上位に位置しやすい。さらに未破裂脳動脈瘤も含めると、治療の必要性の低いものまで治療すれば件数自体を増やすことはできる。
また、治療件数は出ているものの成績は出ていないことがほとんどなので、くも膜下出血でいえば「心臓が動いていれば」とりあえずコイルを詰める、という施設もあるという。
結果として、脳動脈瘤などは、雑誌などに手術件数ランキングが掲載され、セカンドオピニオンで
「え、わざわざそんな遠くまで行くの?しかも何故そこに?」
ということもしばしば経験する。
脳外科は手術成績に対して、外科医個人のパフォーマンスが影響する部分が大きいので、本来は術者の経験件数と成績で評価するべきだろう(心臓のバイパス手術や美容外科も同様)。
ただし、自分や師匠のように、くも膜下出血などの血管障害だけでなく、腫瘍も三叉神経痛も手術します、というのは不利になる。
実際には、良性腫瘍を神経からはがすような繊細な操作は、動脈瘤の操作でも役に立つし、どこの血管でもバイパスできる、縫えるというのは、脳外科のどの手術においても致命的な合併症を回避するのに持っておくべきだと思う。
しかし、その辺の細かい事情は、”手術件数”という数字だけに注目すれば当然考慮されなくなってしまう。
脳外科でも、サイゼリアでいう、299円ドリアのような、売りがないといけないということかもしれないが、やはり違和感がある。
結局、一脳神経外科医的には、自分の手術を選んでくれた患者さんに、最善と思える治療を提供するしかないんじゃないだろうか。
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ん? ほとんどタイトルに対する感想のようだ...
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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