くも膜下出血後、動脈瘤がどれくらい再発するか、というのは脳卒中に携わる者としては気になるところであり、師匠の堤先生の研究については以前にも書いた。
今月号のWorld Neurosurgeyに後方視的にde novo aneurysm、つまり再発動脈瘤がどれくらい出来ていたかという論文。
World Neurosurg. 2019 Feb;122:e291-e295. doi: 10.1016/j.wneu.2018.10.022.
Natural History of De Novo Aneurysm Formation in Patients with Treated Aneurysmatic Subarachnoid Hemorrhage: A Ten-Year Follow-Up.
Vourla E, Filis A, Cornelius JF, Bostelmann R, Turowski B, Kalakoti P, Rubbert C, Suresh MP, Tortora A, Steiger HJ, Petridis AK.
ドイツからの論文だが、130人のくも膜下出血後の患者さんを平均10年(±2.7年)経過観察したところ、10人(7.7%)に、最初とは別の場所に動脈瘤が見られ、そのうち2人はくも膜下出血を起こした(くも膜下出血で見つかった)。
n=10なので、喫煙や高血圧に関して、再発と関わる統計学的に有意な因子は検出されていない。
内容を見てみると、この施設は年間100件以上くも膜下出血の治療を行っているらしいが、「それなのに130人の結果とはどういうこと?」と思って見てみると、
まずくも膜下出血発症後、1年以内に無くなった480人(!)は除外。
480人(40%)というのは多いような気もするが、本邦でも時折話題になるように、自分で食べられない患者さんは、そのまま看取る方針ということかもしれない。
266人のコイル後の再治療も除外!? コイルでの治療後5人に1人が再治療ということになると、急性期に再出血して死亡している人もいるのかもしれない。
日本の血管内治療医は、そういう点ではかなり”ねちっこく”、2mmとかのコイルでできるだけ詰めようとするので、ここまで再治療が多いとは思えないが、開頭手術屋としては「中途半端な治療しやがって」という印象。
ただ、この論文では、最初に出血した動脈瘤の再増大は再発にカウントしていないので、主旨には影響しないだろう。
健康な250人は検査を拒否。また74人は行方を追えなかった。
動脈瘤などの一定頻度で頓死することがある病気で観察研究を行う難しいところは、経過を終えなくなった人のなかに、実はくも膜下出血を起こして亡くなっている状態で見つかった人が含まれている可能性があり、高齢だと寿命とか心不全などの病名を付けられている可能性があることだ。
つまり、それが最大74人いることになる。(さすがに全員動脈瘤ができて頓死したとは考えにくいが)。
ということは、「実際には再発動脈瘤はもっと出来ているのでは?」という疑問が出てくるが、それは分からない。
(その点でFinlandのJuvelaらの報告は、死因不明の方は解剖して死因を調べられており、徹底している。)
また検査を断った250人に関しては、観察対象の130人と同じような人たちと考えられなくはないが、かなりの割合が脱落してしまったので、StrokeなどではなくWorld Neulosurgeryまで降りてきたのかも知れない。
結果として、この病院で治療されたくも膜下出血の患者さんのうち、10分の1しか経過を終えていないにもかかわらず、10人に再発が見られ、2人にくも膜下出血が起こっている。
くも膜下出血が10年で130人に2人という見方をすれば、Tsutsumiらの結果(10年で2.2%)よりやや低く、日本人の方が若干出血しやすいのかもしれない。
再発動脈瘤が見つかった時期に関しては2−5年の間に2人、5-7年に7人、10年経ってから1人という結果だった。
高血圧が6人に、喫煙が3人に認められたが、くも膜下出血後も喫煙しているとは...
毎年脳血管の検査する必要はあまりないと考えているが、3〜5年に1度は検査する方がよいのかもしれない。
*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
Comments