前職で調べた未破裂脳動脈瘤の出血率に関する論文が、 アメリカ神経外科学会誌(Journal of Neurosurgery)に 掲載されました。
J Neurosurg. 2019 Mar 8:1-6. doi: 10.3171/2018.11.JNS181781. [Epub ahead of print]
未破裂脳動脈瘤の出血率に関しては、多施設前向き研究や、単施設でも多くの患者さんを対象にした研究が既にあります。
「今更何を新しいことがあるのか?」というところですが、"従来行われてきた方法で解析を行うと、実は出血のリスクを小さく見積もってしまうのではないか"という内容です。
*******************
「未破裂脳動脈瘤がくも膜下出血を起こす危険性は、全部ひっくるめると1年あたり1%」ということになっています。
この1%という数字の根拠は何でしょう?
これは未破裂脳動脈瘤を持っている人が2~6%(100人に2〜6人)いて、くも膜下出血が10万人あたり20~60人くらい起こる。
これを割り算して1%くらい、ということだった可能性があります。
この計算自体、少し立ち止まって考える必要のある数字です。
昨年人間ドックで見つかった未破裂脳動脈瘤の方で、ガイドライン上治療を検討するとされる5mm以上の方は0.3%(1,000に3人程度)と報告されています(Imaizumi 2018)。
治療を検討するというのは、つまりくも膜下出血のリスクが無視できないということですが、そういう「危ない」動脈瘤は1,000人に3人しか見つからなかった、ということ。
そうすると、1%というのも、高く見積もりすぎなのでは?という疑問が出てきます。
*******************
2012年に発表されたUCAS Japanという日本脳神経外科学会が主体になって行った研究では6,000人近い未破裂脳動脈瘤の方が登録され、経過観察中に111件のくも膜下出血が起こりました(UCAS investigators, 2012)。
その結果から、未破裂脳動脈瘤の年間出血率は0.95%と算出され、「やっぱり1%くらいなんだな」というコンセンサスになっています。
しかし本当にそうでしょうか?
日本の病院で、未破裂脳動脈瘤の出血率を調べた、という研究は複数あり、2005年に森田先生がそのまとめを、地方別に分けて報告しています。
これによると、未破裂脳動脈瘤の出血率は平均2.7%!(最低1.6%-6.9%(!), 95% CI 2.2-3.3%) でした (Morita 2005)
年間1%も2.7%も、微々たる差で、それほど違わないと思われるかもしれませんが、脳動脈瘤はいったんできたら、一生つきあわなければならないものです。
なので、たとえば10年の間に出血する可能性を考えると、それぞれ、9.5% vs 24.9%になります。 (1-(1-(出血リスク))^10(年))=(1-(出血せずに生存している率)^10)
(2019/03/18訂正)
「10年間で、10人に一人がくも膜下出血を起こします」と「4人に一人がくも膜下出血を起こします」では、大分話が変わってくるのではないでしょうか。
Reference:
1. Imaizumi Y, Mizutani T, Shimizu K, Sato Y, Taguchi J: Detection rates and sites of unruptured intracranial aneurysms according to sex and age: an analysis of MR angiography-based brain examinations of 4070 healthy Japanese adults. J Neurosurg 1:1-6, 2018
2. Morita A, Fujiwara S, Hashi K, Ohtsu H, Kirino T: Risk of rupture associated with intact cerebral aneurysms in the Japanese population: a systematic review of the literature from Japan. J Neurosurg. 102:601-606. doi: 610.3171/jns.2005.3102.3174.0601., 2005
3. Morita A, Kirino T, Hashi K, Aoki N, Fukuhara S, Hashimoto N, et al: The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort. N Engl J Med. 366:2474-2482. doi: 2410.1056/NEJMoa1113260., 2012
*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら
Comments