生存時間分析は、何らかのイベントが起こるまでの時間とイベントの関係に焦点を当てる分析方法で、たとえば「機械が壊れるまでの時間」や、医療では「癌の再発や死亡までの時間」を調べるときに用いられます。
われわれの研究でも、(参考のために)カプランマイヤー曲線を用いた生存時間分析を行いました(下図)。
細かい縦線は、「打ち切り」≒手術(開頭手術もしくはカテーテル治療)を表しています。
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未破裂脳動脈瘤の研究もそうですが、ヒトを対象として行う観察研究では、転居などにより「連絡が取れなくなる」ということがしばしばあります。
(個人情報保護法施行後、一度連絡が取れなくなってしまった対象患者さんに連絡を取ることはかなり困難です。)
カプランマイヤー法では、この経過観察できなくなった方を「打ち切り(censor)」という処理を行うことで、最後に観察できた時点までの情報を無駄にせずに分析に用いることができます。
つまり、この「打ち切り」扱いになった方に関しては、観察対象として残っている同じような性質・特徴をもつ方と同じ「イベント」のリスクがあるとして分析します。
たとえば、「抗がん剤がどれくらい死亡を予防するか」を調べる研究でも、途中で連絡取れなくなることがあります。この方については、観察している人には、その生死は分かりません。
そこで、最後に連絡が取れた時点で「打ち切り」として、連絡が取れている同じような特徴の方と同じ死亡の可能性があると考えるのです。
そうすることで、せっかく研究(治験)に参加していただいた方の情報を、少なくとも「打ち切り」時点までは、活かすことができます。
しかし、事前にだれが「打ち切り」になるかは分からず、”ランダムに”起こることが、この分析の前提とされています。
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従前のISUIA, UCAS Japan, 手術の師匠である堤一生先生の論文(Tsutsumi, 2000)にしても同じですが、動脈瘤からの出血をイベントとし、経過観察できなくなった方・手術を「打ち切り」として解析しています。
問題は、手術を打ち切りとして良いのか?ということです。
「引っ越しや、携帯番号が変わって連絡が取れなくなった、15mmのいびつな動脈瘤を持っている患者さん」と「同じ大きさ形の動脈瘤で、開頭手術で完全に動脈瘤を処理した患者さん」は同じでしょうか?
未破裂脳動脈瘤の手術は「動脈瘤からの出血を防ぐための治療」なのですが、「打ち切り」とされた患者さんは、観察対象に残っている人と「同じ出血リスク」を持っているのでしょうか?
それなら手術の意味は「ない」ということになりますが、これはおかしいですね。
1. Tsutsumi K, Ueki K, Morita A, Kirino T. Risk of rupture from incidental cerebral aneurysms. J Neurosurg. 2000;93(4):550-3. doi: 10.3171/jns.2000.93.4.0550.
*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら
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