脳神経外科 木村 俊運のページ
脳外科手術をより安全に
治療
三叉神経痛の治療としては、4通りの治療法(内服治療、神経ブロック、手術、ガンマナイフ)が行われています。
私自身は脳外科医ということもあり、特に年齢が若い方には手術治療をお勧めします。
その理由は、
1. 治癒が得られ、毎月通院しなくて良くなる。
2. 三叉神経痛が「また起こるのではないか?」という不安から原則開放される。
3. 手術リスクが小さい。
4. 他の治療法の副作用。
以下にそれぞれの治療法について説明します。
1.くすりによる治療
顔面痙攣と同じように、三叉神経痛も三叉神経への刺激が間違って脳に伝えられることにより起こります。
そのため神経のはたらき自体を低下させることで、痛みを抑えます。抗てんかん薬のなかでも、カルバマゼピンという薬が三叉神経痛に対しては非常に効果が高いです。
しかし、カルバマゼピンには、無視できない頻度で副作用が出ることがしられています。
まず、神経のはたらきを抑える薬ですので、ふらつきや、ぼうっとする感じが起こることがあります。
この場合、痛みがコントロール出来る量と、ふらつきが出る量の間で調整することになります。
また長期間内服されている方でもじんましんのような薬疹が急に起こることがあります。
その他、肝臓の働きが悪くなったり、肝臓の酵素を増やすことで他の薬の作用を弱めることがあります。
また特殊な副作用としては「音程が半音下がる」という方もいます。特に音楽をされている患者さんにとっては非常に気持ち悪いようです。
痛み止めのなかではプレガバリンという鎮痛薬が有効な方もいます。
2. 神経ブロック
顔から針を刺して、三叉神経のなかの神経節と呼ばれる部分に麻酔薬を注射したり、熱を加えて三叉神経をまひさせることで、痛みが伝わるのを防ぎます。
長所は手術と比べると簡便であることです。
短所としては、時間が経つにつれて効果が薄れてくるため、半年から2年くらいの頻度で治療を繰り返す必要があることと、歯医者さんで麻酔をしたときのように、顔がしびれた感じになることです。
「舌にうろこが生えているような感じ」という風に表現される方もいます。
神経ブロックを行うことで、およそ90%位の患者さんが結果に満足されているようですが、やはり違和感があるため、神経ブロックを何度か行った後、手術治療を希望されるかたも多いです。
また長期的には、神経ブロックを繰り返すことで神経自体が傷んで、しびれがずっと残る方もいます。
3. 手術
三叉神経は、三叉神経に動脈や脳腫瘍が接触して起こっているため、これに対して直接操作を行って治療します。
病気の原因に対する治療になるため、根本的な治療と言え、92-95%の方は、内服や通院の必要がなくなります。
典型的な、動脈が圧迫している三叉神経痛の場合には、耳の後に5~7cm程度の切開をおき(皮膚の厚さ、筋肉の発達具合によります)、10円玉くらいの孔を作る、いわゆる鍵穴手術と呼ばれる手術です。
この孔から三叉神経をのぞき込んで、当たっている動脈を移動させ、さらに三叉神経の周りのクモ膜を切開して捻れがおこらないようにします。
大体8日程度の入院が必要になります。
(ご自宅が通える距離であれば、手術後4日目くらいに退院して、外来で抜糸される方もいます。)
欠点としては、全身麻酔の手術治療であり、入院治療が必要になることと、手術した側の聴力が下がる可能性があること(<1%)、傷の感染や、髄液が漏れる合併症(1~2/100件)のほか、再発の可能性(<3%)があることです。
典型的な三叉神経痛の皮膚切開デザイン
比較的典型的な三叉神経痛の手術所見
やや非典型例の手術所見(前下小脳動脈に加えて上小脳動脈による圧迫も疑われた例)
典型的な三叉神経痛(手術動画)
ごく稀と考えられますが、圧迫している血管がないにもかかわらず、三叉神経に原因不明なくびれが生じていて、手術により改善した方に関して学会・専門雑誌で報告いたしました。
(その後、信州大学のグループからも、同様の症例報告がされました。当たっている血管がなくて、手術の適応がないとされている方のなかに、このような仕組みで三叉神経痛が起こっている方が一部いると思われます。)
Trigeminal neuralgia caused by a fibrous ring around the nerve.
Kimura T, Sameshima T, Morita A.
J Neurosurg. 2012 Apr;116(4):741-2