脳神経外科 木村 俊運のページ
脳外科手術をより安全に
脳動静脈奇形 (AVM)
脳に限らず、わたしたちの身体の中では、動脈がさまざまな臓器・組織に血液を送り、毛細血管で酸素・栄養と老廃物を交換し、その血液が静脈を通って心臓に戻ってくるという仕組みになっています。
脳動静脈奇形(arterio-venous malformation, AVM)は、この「毛細血管」を挟まずに動脈と静脈が繋がっている状態です。奇形という名前が付いているように、生まれる前からあるものが、場合によっては症状を出してくる、というものです。
また、脳の血管の病気の中では、脳動脈瘤などと比べると、かなり稀な病気です。

生まれつき持っているといわれる脳動静脈奇形ですが、脳ドックなどで見つかるほか、何らかの症状を起こして見つかることがあります。
・てんかん発作
てんかん自体は比較的よくある病気で、日本でも100人に1人くらいの割合でみられるといわれています。
その多くは原因不明ですが、一部には脳腫瘍などの脳の病気が原因となることがあります。
脳動静脈奇形があるからといって必ずてんかんを起こすわけではありませんが、てんかんの原因を調べていく過程で脳動静脈奇形が見つかるケースがあります。
・頭痛
頭痛はきわめてありふれた症状で、脳外科の外来を受診される方の理由として一番多いものです。脳動静脈奇形は稀な病気ですが、慢性的な頭痛で見つかることもあります。
特徴として「脳動静脈奇形による頭痛は薬でなかなかコントロールしづらい(痛みが収まりにくい)という特徴があります。
(薬でコントロールできないから脳動静脈奇形が疑われるわけではありません)
・頭蓋内出血
脳動静脈奇形が原因で脳内出血を起こすことがあります。脳動静脈奇形の一部は脳の中に埋もれた形になっているため、脳の中に向かって出血すると脳内出血、外側に向かって出血するとくも膜下出血を起こします。
・無症状で見つかる場合
脳ドックもそうですが、
・頭をぶつけて、念のためにCTを撮像したら偶然石灰化が見つかった
・めまいで脳のMRIを撮像したら偶然、脳動静脈奇形が見つかった
ということもあります。

治療すべきかどうか
脳動静脈奇形が見つかった際、すぐに治療すべきかどうかについては、出血の有無や部位、大きさなどによって最適な選択が異なります。そのため、一律の「正解」があるわけではなく、患者さんお一人おひとりのリスクを慎重に見極め、病気に対する考え方なども相談して判断する必要があります。
・脳出血を起こした場合
いったん出血した脳動静脈奇形は、その年のうちに6%くらいの確率で再度出血するといわれています。せっかくリハビリを行って機能が回復してきたタイミングでまた出血して麻痺などが悪くなる、という事態を避けるため、切除可能な脳動静脈奇形の場合は手術(開頭手術)を提案することが多いです。
・頭痛やてんかん発作が症状の場合
頭痛やてんかん発作が症状となっている場合、原則的には薬による治療を行いますが、薬でのコントロールがなかなか難しい場合には治療を提案することがあります。
・無症状の場合
脳動静脈奇形自体は稀な病気のため、「実際に長期間ほうっておいた場合にどうなるか」は分かっていない部分も大きいです。一般的には、脳動静脈奇形をお持ちの方は、1年間に2% (50人に1人)の割合で脳出血を起こすといわれています。そのため、脳出血の予防を目的として治療を検討することになります。
治療方法
治療方法としては2種類あります。
一つは定位放射線治療で、もう一つは開頭手術で切除するというものです。
定位放射線治療(サイバーナイフやガンマナイフなど)は、病変に放射線を集中させることで、「数年かけて血管の壁を厚くさせ、最終的に血流を消失させる(閉塞させる)」治療法です。
流れが悪くなっていくと、脳動静脈奇形に血液が入らなくなるため、出血しなくなります。
開頭手術と比べると圧倒的に低侵襲ですが、脳動静脈奇形が無くなるまでに時間がかかることが欠点です。(そのため、出血例では開頭手術を第一選択としている側面があります。)
また稀ではありますが、10年以上経ってから炎症による脳浮腫を来すことや、脳血管撮影検査で消えているのに出血を起こすことがあります(大きな出血を来すことは稀です)。
開頭手術については下に説明します。
脳動静脈奇形の手術
毛細血管は、血流にとって抵抗になりますが、脳動静脈奇形では動脈が直接静脈に流れ込むため、この抵抗がほとんどありません。その結果、毛細血管に流れて脳を養うはずの酸素・栄養がやりとりされずにそのまま、心臓にもどってしまいます。そのため、脳動静脈奇形の周りには、機能していない脳の組織の層が数mmできています。機能的にも脳動静脈奇形のすぐそばの脳組織ははたらいていません(感触も正常組織とはことなります。)
手術で脳動静脈奇形を切り取る際には、この機能していない部分を丹念に辿って脳から切り離すかたちになります。
手術のコンセプトは確立されていて、
① 脳動静脈奇形を必要な方向から観察できるような十分な開頭を行う 。
②脳動静脈奇形に血液を送っている動脈(つまり心臓側)を全て確保する。(これが難しい場合は、手術前にカテーテルで詰めておきます。全ての動脈をカテーテルで詰めることもあります)
③ 脳動静脈奇形の圧が十分下がったことを確認して、上述の脳動静脈奇形周囲の傷んだ組織を辿って脳動静脈奇形を脳から切り離す
④最後に残った静脈を切り離す
⑤止血を確認する
というものです。
コンセプト自体はシンプルですが、脳動静脈奇形のサイズが大きくなると、剥離しなければならない面積が大きくなるため、手術時間が長くなりますし、取り残しがあると術後に脳出血を起こすことがあります。
大きなサイズの脳動静脈奇形の場合、血流が急に変わることで術後に脳が腫れたり出血したりするリスク(NPPなど)があるため、術後も慎重な管理が必要です。
当院では、手術・定位放射線治療(サイバーナイフ)、血管内手術のエキスパートと共に治療方針を提案しています。
