top of page
  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

科学的に?証明された究極の食事

更新日:2018年8月18日

バターコーヒーダイエットしているという記事を以前に書いたが、「バターが身体に良いわけないだろうが!」とMPH(公衆衛生学修士)と医療政策学PhDを持っているドクターが書いているので読んでみた。


津川友介,  バターコーヒー, 健康法

MPHだけあって、RCT, メタアナリシスに基づき、脳卒中や心筋梗塞、癌の発症・死亡との関連を調べた論文を読み込み、それらの根拠に基づいて、「健康によい食事」を提案している。


(バターはダメだが、)オリーブオイルを多用し、ナッツの摂取を奨励する地中海食や、白米を避け、精製していない炭水化物、および魚食を勧めている。


なるほど。多分正しい。

しかし、どうも昔流行った、EBM(証拠に基づく医療)至上主義と同じ匂いを感じる。


例えば、件の地中海食。

2013年のNEJMの論文を引用しているが、地中海食を指導したグループはコントロールと比べて5年で30%、脳卒中、心筋梗塞、および死亡のイベントが少なかった、とある。

これは、製薬会社のMRさんが良く使う言い回しだが、30%というのはRRR(=relative risk reduction)であるというところに注意する必要がある。

(正確にはハザード比が0.7になるということ。)


つまり、この場合、上記のイベント(脳卒中、心筋梗塞、及び死亡)が、対照群では9763人中109人(単純計算だと1.1%)起こったが、オリーブオイル群では11852人中96人(単純計算だと0.8%)に起こっている。

実際には観察している期間の要素も考慮する必要があるので、1000人・年、つまり1000人を1年間、(とか5年の調査なので、200人を5年間というように、人数 と観察期間のかけ算) 様子を見ていると、対照群は5.9/1000人・年、オリーブオイル群では4.1/1000人・年、上記イベントが起こったという話。

一生懸命オリーブオイルを摂取している人が1000人いたら、もともと6人脳卒中になったり死んだりするはずだったけど、それが4人に減りました。オリーブオイルのおかげで、1000人中2人弱は脳卒中や死亡を免れますよということ。


果たしてこれは、この本を手に取るような読者が求めている内容なのだろうか


そもそも、これを食べれば絶対病気にならないとか、長寿が約束される、というものはないのであって、統計学的(疫学的)な根拠がある情報を提供しているという点では正しい。


また、できるだけ白米は減らすべき、として、「個人的には」と注釈を加えているものの、「白米の接種量と糖尿病のリスクとの間には正の相関があるので、減らせるのだったできるだけ少ない摂取量の方が良いと考える」としている。

Huらの原著(2012)の図で白米摂取量が増えると、相対リスクは上がるのだが、摂取量100g/日未満と、それ以上でsampleサイズが大分異なるのが見て取れる。


白米,糖尿病, BMJ
白米摂取量と糖尿病の発症

この本では、相対リスクではなく、1年、10万人あたりの発症に変更しており、1日600g前後までだと、"10万人あたり"400人前後(1000人に4人)が糖尿病になることを示している。

これも1年あたりであり、糖尿病が慢性期にいろいろな病気を引き起こすことを考えると、白米は減らした方がよい、と思う。


しかし、本文の記述を見た(一般の)読者はどう思うだろうか?多分、

「白米を食べていると糖尿病になる」(と科学的に証明されている!)と思うのではないだろうか?

これも"1年あたり1000人に4人"と言われると、「ふーん」レベルの話になってしまうのではなかろうか?


*******************

そもそも、「科学的に証明された」というタイトルがまずミスリーディングであって、多くの人は「ヒトの代謝メカニズム、およびその相互作用が解明され、その根拠に基づく食事」と思うのではないか?

(ただ「疫学的に指示された究極の食事」と言っても「疫学・・?」という人が多いだろうし、「科学的に」が間違っている訳でもない。)


最初の地中海食の話で、「オリーブオイルを摂ると、脳卒中が1000人・年あたり、5.9人が4.1人に減りますよ」と言われても、全く面白くないだろうから、仕方ない側面もある。


と、バターコーヒー派としては、穿った読み方をしてしまうのだが、疫学的な情報としては役立つ。

また「果物を食べるのと、100%果汁を飲むのは全く別物である」など、誤解されてそうな役に立つ情報が沢山あるし、「納豆を食べれば全て解決」みたいな眉唾な話よりはよほど根拠がある。


*******************


因みに自分は未だに朝食はバター・MCTオイル・コーヒー生活を続けている(最近は果物も追加しているが)

別にダイエットする必要があるわけではない。

朝、炭水化物を摂っていた頃と比べて、午前中に眠くなることなく、昼頃まで空腹感に仕事を邪魔されずに済む、という理由だ。


脳卒中は勘弁だが、別に長生きするために生きているのではないので、好きでもないのにオリーブオイルの摂取を増やしたり、白米を極端に減らす必要はないのかもしれない。


(しかし喫煙は別で、周りの人にも迷惑なので、即止めましょう。)





(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

最新記事

すべて表示

くも膜下出血を起こさない脳動脈瘤

一般的に大きさ5mmというのが(日本人では)治療を考える上で一つの基準になりますが、サイズが大きめでもくも膜下出血のリスクは高くないという部分もあります。 代表的なものに『海綿静脈洞部内頸動脈』にできる動脈瘤があります。 どうしてくも膜下出血を起こしにくいのか、というかほとんど起こさないのですが、もちろん理由があります。 くも膜下出血を起こす場所ではないからです。 脳は頭蓋骨の内側にあるわけですが

bottom of page