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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

バイパスと手術室の騒音

「リラクセーション音楽(瞑想音楽 meditation music)でバイパスの質が向上するか?」という、ヨーロッパ脳外科学会誌に掲載されていた論文


Acta Neurochir (Wien). 2019 Aug;161(8):1515-1521. doi: 10.1007/s00701-019-03976-4. Epub 2019 Jun 21.


バイパス手術は「highly demanding procedure」つまり、「要求度の高い手術」とされており、脳外科医の技術を評価するのにちょうど良いということらしい。

実際の手術室では、音楽をかけて行うことも多いが、それでも心電図モニターの音や、顕微鏡などの機器の作動音、冷却ファンの音など、雑多な音がいろいろある。

そのような雑音が、集中を乱すという研究はいろいろあるが、じゃあリラクセーション音楽を聴きながら作業すれば、より精度が上がるのではないかということらしい。


実験では若手脳外科医と熟練者に練習用のチューブを10-0ナイロン糸で、実際の手術同様に縫合してもらい、要する時間や、針の刺入・糸結びなどの持ち直し回数(Number of Unachieved Movements, NUM)などが増えてないかを調べた。


その結果、リラクセーション音楽を聴きながら行った方が、持ち直しなどの回数(Number of Unachieved Movements, NUM)が少なかった。

(縫合の時間などは変わらなかった)


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バイパス手術は卓上練習可能な手術なので、(深部での操作はともかく)表面の縫合操作がそれほど”demanding”なのか?というところから、日本人脳外科医としては突っ込みたくなる。

また、用いた音楽がいわゆるmediation musicでδ波が出るような曲ということだが、むしろ術者が好きな曲とか、あるいはヘッドフォンで聴かせるのだから、ノイズキャンセリングヘッドフォンで無音と比べるなどしても良いのではないだろうか。


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手術中に音楽をかける方が良いかどうかに関しては、結構まじめな議論がされているのだが、個人的にどちらでも良い〜バイパス中は静かな曲が好みだが、本当のキモのところはできるだけ無音(音楽なし)が良い気がする。

(本当に大事なときは、音楽がかかっていると無茶苦茶大音量のように聞こえるため)


ちなみに前院長で肝臓手術の権威、幕内先生は、必ず演歌をかけていた。


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この研究は、実際の手術を想定して、「手術室の喧噪」vs「リラクセーション音楽」を聞きながらバイパスの操作を行うというものだったが、音楽聴きながら練習することについてはどうだろう。

縫合練習も、ある程度できるようになってくると、好きな音楽や、英語のリスニングをしながら練習するという向きもあるだろう。


僕もそんな風にやっていた時期があるが、何かの記事に

「イチローや松井秀喜が音楽聴きながら素振りしていたと思いますか?」

のようなことが書いてあり、おおいに反省した。


音楽聴きながらだらだら練習するより、「10針でもいいから、最大限集中する」の方が、少なくとも今の自分には必要だろうと思っている。


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しかし、pilot studyとはいえ、若手と熟練者一人ずつ(n=2)の結果で、Acta Neurochir誌に載ったのはHelsinki大学からの論文だからかな、と勘ぐってしまうなあ。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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