今日の抄読会で丹羽良子先生が紹介してくれた聖隷浜松病院からの論文。
J Neurosurg. 2018 May 18:1-8.
くも膜下出血を起こされた方のうちの、およそ20%が水頭症を来すが、この水頭症という病気はくも膜下出血以外でも起こる。
例えば脳腫瘍、出生時の脳内出血など。
水頭症に対しては、閉塞性水頭症で内視鏡による治療が有効なことはあるが、多くの患者さんでは脳室腹腔シャントという、余計な髄液を(だいたいは)お腹のなかに流す管を埋め込むことになる。
最近は、といっても自分が医者になった頃にはすでにそうであったが、この管に流れる量を調整するバルブがついていて、患者さんの病状によって、調節することができるようになっている。そしてどの会社の製品も内臓する磁石を回転させることで、流れる量を調節している。
この圧調節用の磁石(バルブ)が曲者で、MRIを撮影すると磁場が影響を受けるため、バルブ周囲の情報が得られなくなってしまうのだ。
ここまでは脳外科医なら誰でも知っていることだが、このバルブ周囲の情報が無くなってしまう範囲が、バルブの圧によって異なるという報告!
(ちなみに製品によっても異なる。)
言われてみれば当たり前だが、バルブ圧の調節を磁石の向きで行っており、MRIの磁場にも向きがあるので、バルブの向きが変われば、バルブ周囲の磁場が変わり影響を受けるということ。
これは、もちろん全ての患者さんにシャントバルブが入っている訳ではないが、毎日毎日MRIを見ているのに、気付く人は気付いて、(自分を含め)そうでない人には全く見えないという死角があらわになったもので、そこが面白い。
全然思いつきもしなかったので、全く悔しい感じはなく、脱帽!
おそらくバルブ圧でアーチファクト(画像が乱れて情報が得られない範囲)を狭く出来るからと、MRI撮影のたびに圧を変える脳外科医はごく少数だろう。
(圧を変えたが戻せなくなったということが実際に起こりえて、しかもその際は再手術(バルブの入れ替え)になりかねない。そのため、水頭症の状態が安定しているのであれば、変更することはできるだけ避けたいというのが、多くの脳外科医の意見だろう。)
こういう死角がいろいろあるんだろうな、と改めて感じた1本だった。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
Commentaires